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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
翌日も、普段と変わったことはなかった。
自宅に帰宅していた薫はカイザーとともに現れた。
薫の母から送られてきたという軽井沢の牧場で作られたバタースコッチを瑞葉に手渡しながら、彼は陽気に喋った。
「カイザーが瑞葉さんを恋しがって大変でしたよ。
早く学院に戻りたいって夜になるとすごく悲しそうに鳴くんです」
「…ありがとう、カイザー」
千切れそうに尻尾を振るカイザーをぎゅっと抱きしめる。
…カイザーからはやはり陽だまりの匂いがした。
…少ししたのち、さり気なく尋ねてみる。
「…あの…、薫さん。
学院に誰か訪ねてきたりしていませんか?
…僕のことを探している人とか…」
薫は大きな眼を見開き、きょとんとした表情をした。
「瑞葉さんのことを?
いいえ。そんな人、いませんよ。
紳一郎さんからもそんな話は聞きませんし…」
「…そうですか…」
ほっとしたように長い睫毛を伏せた瑞葉に、薫は励ますように手を握りしめた。
「大丈夫ですよ。
八雲さんが暫く来られないから心配かも知れませんが、瑞葉さんのことは僕たちがお守りします。
…それに、ここを嗅ぎつける人なんて絶対にいませんよ。
まさか、礼拝堂の塔の上にこんな隠し部屋があるなんて、想像もできないはずですからね」
屈託なく薫に言われると、そうかもしれない…との思いが強くなる。
…そうだ。
あの軍人はたまたま見かけた人影に気づいて驚いただけだ。
あんなに遠ければ、僕の髪の色や瞳の色など見えるはずはないし…。
もし、本当に怪しんでいるのなら、とっくにここに踏み込んでいるはずだもの…。
瑞葉は漸く胸を撫で下ろし、薫に話しかけた。
「…お家は楽しかったですか?
何か面白いお話はありますか?」
薫の話はいつも本当に愉快なのだ。
薫は肩を竦め、わざとしかつめらしい貌をしてみせた。
「…面白くはないですけれど、僕の鬼ババの手紙を読みますか?
僕への説教しか書いてないこの手紙!10枚ですよ!今回は新記録です。
読んだら暖炉の焚き付けにしていいですよ」
分厚い手紙を手渡され、瑞葉は思わず吹き出したのだった。
自宅に帰宅していた薫はカイザーとともに現れた。
薫の母から送られてきたという軽井沢の牧場で作られたバタースコッチを瑞葉に手渡しながら、彼は陽気に喋った。
「カイザーが瑞葉さんを恋しがって大変でしたよ。
早く学院に戻りたいって夜になるとすごく悲しそうに鳴くんです」
「…ありがとう、カイザー」
千切れそうに尻尾を振るカイザーをぎゅっと抱きしめる。
…カイザーからはやはり陽だまりの匂いがした。
…少ししたのち、さり気なく尋ねてみる。
「…あの…、薫さん。
学院に誰か訪ねてきたりしていませんか?
…僕のことを探している人とか…」
薫は大きな眼を見開き、きょとんとした表情をした。
「瑞葉さんのことを?
いいえ。そんな人、いませんよ。
紳一郎さんからもそんな話は聞きませんし…」
「…そうですか…」
ほっとしたように長い睫毛を伏せた瑞葉に、薫は励ますように手を握りしめた。
「大丈夫ですよ。
八雲さんが暫く来られないから心配かも知れませんが、瑞葉さんのことは僕たちがお守りします。
…それに、ここを嗅ぎつける人なんて絶対にいませんよ。
まさか、礼拝堂の塔の上にこんな隠し部屋があるなんて、想像もできないはずですからね」
屈託なく薫に言われると、そうかもしれない…との思いが強くなる。
…そうだ。
あの軍人はたまたま見かけた人影に気づいて驚いただけだ。
あんなに遠ければ、僕の髪の色や瞳の色など見えるはずはないし…。
もし、本当に怪しんでいるのなら、とっくにここに踏み込んでいるはずだもの…。
瑞葉は漸く胸を撫で下ろし、薫に話しかけた。
「…お家は楽しかったですか?
何か面白いお話はありますか?」
薫の話はいつも本当に愉快なのだ。
薫は肩を竦め、わざとしかつめらしい貌をしてみせた。
「…面白くはないですけれど、僕の鬼ババの手紙を読みますか?
僕への説教しか書いてないこの手紙!10枚ですよ!今回は新記録です。
読んだら暖炉の焚き付けにしていいですよ」
分厚い手紙を手渡され、瑞葉は思わず吹き出したのだった。