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夜明けまでのセレナーデ
第1章 屋根裏部屋の約束
「…なかなか止まないね。サイレン…」
薫の言葉に、泉ははっと天井を見上げた。
防空壕の中の明かりは、常にちらちらと切れがちになる。
…電力の供給が充分でないのだ。

「そうですね。
…今夜は、東京はかなり被害が出ているかもしれません」
泉の言葉に不安がよぎる。
「…暁人の家は大丈夫かな…」
「飯倉の方面はまだ大丈夫かと思います。
まず狙われるのは下町でしょう。
先程偵察機が東の方へ飛んで行くのを見ました」
「…そうか…」
…大紋は多忙で留守がちだし、使用人は何名かいるにしてもあの広い屋敷に絢子一人だと心細いに違いない。
絢子はとても繊細で心弱いひとなのだ。
…男勝りな光とは天と地ほどの差がある。

「…絢子小母様、不安だろうな…」
薫は、ぼそりと呟く。


…「薫、もしできるのなら、お母様を頼む」
あの日、江田島の海軍士官学校に帰る前、薫を訪ねてきた暁人は、薫にそう言って頭を下げたのだ。

まだ、手紙の一通も届かない…。
薫は小さくため息を吐いた。

…あの日から…もう半年がすぎようとしていた…。



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