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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
「…僕と…以前に会われたことが…?」
小さな声で尋ねると、速水は清潔な瞳で嬉しそうに頷いた。
…そうして…
「長い話になりそうです。
…何か温かいものを淹れましょう」
そう言うとしなやかに立ち上がった。
…黒革のブーツに覆われた脚は長く、黒い軍服に包まれたその身体は引き締まり、逞しい肉体が想像できた。
長身の後ろ姿は姿勢が良く、いかにも軍人といった精悍な姿だ。
…年の頃は、瑞葉より数歳上の二十五、六歳だろうか…。
速水は暖炉の上の小さな棚の中にあるワインを見つけ出し、手際よく鍋に注いだ。
「ホットワインにしましょう。
すぐに身体が温まりますから…」
所作や語り口は、荒々しく乱暴と名高い憲兵隊のそれでは決してない。
寧ろ丁寧で端々に品位が感じられる男だ。
瑞葉は暫く、暖炉の上で器用にワインを温める男の端正な横貌を遠慮勝ちに伺った。
「…あの…。僕とはいつ…?」
差し出されたマグカップを受け取りながら、尋ねる。
温かな陶器の温もりが冷え切った薄い皮膚にじんわりと染み込む。
「…十年ほど前でしょうか。
貴方はまだ十歳くらいの少年でいらした。
私は篠宮伯爵家で開かれた夜会に、父とともに訪れていたのです」
「…夜会…」
…夜会に招かれるということは、それなりに身分が高い出身のはずだ。
瑞葉の疑問を読み取ったかのように、速水は穏やかに口を開いた。
「父は山下町で貿易商をしておりまして、瑞葉さんのお父上と紳士倶楽部で交流があったようです。
私は当時ここの高等部に通っておりまして…弟の和葉くんはまだ幼稚舎だったかな。
学院内で見かけたことがあるくらいでしたが、可愛らしい容姿の生徒だったので印象に残っていたのです」
「…そう…なんですか…」
…星南学院の卒業生だったのか。
それなら、和葉と面識があっても不思議ではない。
和葉は人目を惹く愛くるしい少年だった。
歳が違っても印象に残るのは自然なことだ。
小さな声で尋ねると、速水は清潔な瞳で嬉しそうに頷いた。
…そうして…
「長い話になりそうです。
…何か温かいものを淹れましょう」
そう言うとしなやかに立ち上がった。
…黒革のブーツに覆われた脚は長く、黒い軍服に包まれたその身体は引き締まり、逞しい肉体が想像できた。
長身の後ろ姿は姿勢が良く、いかにも軍人といった精悍な姿だ。
…年の頃は、瑞葉より数歳上の二十五、六歳だろうか…。
速水は暖炉の上の小さな棚の中にあるワインを見つけ出し、手際よく鍋に注いだ。
「ホットワインにしましょう。
すぐに身体が温まりますから…」
所作や語り口は、荒々しく乱暴と名高い憲兵隊のそれでは決してない。
寧ろ丁寧で端々に品位が感じられる男だ。
瑞葉は暫く、暖炉の上で器用にワインを温める男の端正な横貌を遠慮勝ちに伺った。
「…あの…。僕とはいつ…?」
差し出されたマグカップを受け取りながら、尋ねる。
温かな陶器の温もりが冷え切った薄い皮膚にじんわりと染み込む。
「…十年ほど前でしょうか。
貴方はまだ十歳くらいの少年でいらした。
私は篠宮伯爵家で開かれた夜会に、父とともに訪れていたのです」
「…夜会…」
…夜会に招かれるということは、それなりに身分が高い出身のはずだ。
瑞葉の疑問を読み取ったかのように、速水は穏やかに口を開いた。
「父は山下町で貿易商をしておりまして、瑞葉さんのお父上と紳士倶楽部で交流があったようです。
私は当時ここの高等部に通っておりまして…弟の和葉くんはまだ幼稚舎だったかな。
学院内で見かけたことがあるくらいでしたが、可愛らしい容姿の生徒だったので印象に残っていたのです」
「…そう…なんですか…」
…星南学院の卒業生だったのか。
それなら、和葉と面識があっても不思議ではない。
和葉は人目を惹く愛くるしい少年だった。
歳が違っても印象に残るのは自然なことだ。