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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
瑞葉はエメラルドの瞳を見開いた。
「…え…?」
「…十歳の貴方でした。
少しして、和葉くんがやってきました。
バルコニーに佇む貴方を見て、彼は慌てて私の手を引きそこから連れ出しました。
あの少女は誰かと私はすぐに尋ねました。
…和葉くんは考えあぐねたのち、教えてくれました」

…「あのひとは僕の兄さんです。
女の子じゃありません。
…金の髪に翠の瞳…透き通るように白い肌…。
西洋人そのものの見かけのため兄さんは生まれた日からずっとお祖母様の命令で、あの東翼に閉じ込められるように暮らしています。
…速水さん、このことは決して他のひとには言わないでください。
絶対に秘密にしてください。
そうでないと、兄さんがどんな目に遭うか分かりません。
兄さんのために、どうか秘密にしてください」

…和葉…。
幼い和葉の思い遣りが、心に染み入る。

和葉は優しい少年だ。
幼い頃から、軟禁されるように育ってきた瑞葉を兄と慕い、祖母の叱責を恐れずに東翼に会いに来てくれた。
和葉から聴く外の世界の話は、瑞葉の数少ない楽しみであり、心の慰めであった。

…だから、和葉が海軍士官学校に入学し、家を離れた時には寂しくて堪らなかった。

戦争は日増しに激しさを増していった。
そのうち、休暇でも和葉は帰宅できなくなり、やがて瑞葉はこの塔の部屋に密かに移り隠れ住んだ。

そのことを和葉にだけは知らせたかったが、八雲がそれを許さなかった。

「…和葉様は海軍に所属される軍人です。
あの方を疑う訳ではありませんが、瑞葉様の情報がどこから漏れるか分かりません。
…お知らせは、なさらない方が良いでしょう」
きっぱりと言い切られてしまったのだ。

…和葉…心配しているだろうな…。
もう何年も、和葉の貌を見ていなかった…。

…それが…。

瑞葉は、自分をじっと見つめる男を恐る恐る見上げた。




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