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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
「私は内密に調査を進め、星南学院の礼拝堂の塔の上に貴方が隠れ棲んでいる情報を掴みました。
そうしてこの数日、その確証を得るために動いていたのです。
貴方はこのような場所で身を潜めていらしたのですね」
瑞葉は身を縮める。
…やはり…このひとは…自分を捕まえに来たのだ。

「…僕を…抑留地に送るためにいらしたのですね?」
速水が眉を顰めた。
「え?」
「…僕が外国人のような容姿だから…抑留地に送られるんでしょう?
抑留地は…捕らえられた外国人ばかりの…色々なひとがいて、言葉も通じなくて中は収容所みたいで、不潔で…荒れていて…憲兵さんは横暴で怖くて…す、すぐに乱暴されて…」
言葉にするうちに声が震え、涙が溢れてきた。

…もう、駄目だ。
憲兵隊の将校に見つかってしまったのだ。
もう…地獄のような抑留地に送られるしかないのだ。

絶望に暮れる瑞葉の耳に、驚いたような男の声が響いた。
「…何を仰っているのですか?
誰にそのようなことを吹き込まれたのですか?」
涙に滲む瞳の先に、やや怒ったような男の眼差しが瑞葉を見つめ返していた。

「貴方の執事の八雲さんですか?
そのような嘘を貴方に教えたのは…」

瑞葉はエメラルドの瞳を見開いた。
「…え…?…嘘…って…」
…速水の言葉を鸚鵡返しする。
このひとは、今、なんと言ったのだろう…。
…八雲が…嘘…?

茫然とした表情の瑞葉の手を、速水は改めて強く握り締めた。
そうして、幼子に言い聞かせるような穏やかな…しかし凛とした声で彼は語り始めた。

「…よくお聞きください。瑞葉さん。
そのような劣悪な抑留地は、日本には存在しません。
…第一、貴方がそのような抑留地に送られなくてはならない理由はひとつもありません」


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