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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
「…え…?
…な、何を仰って…」
頭の中が真っ白になる。
…このひとは…何を言っているのだろう…。
自分は抑留地に送還される必要はない?
そんな馬鹿な…
…だって…八雲は…。

速水の凛々しい貌が引き締まる。
「貴方の執事は、何と仰ったのですか?」

「…八雲は…お祖母様が…僕を外国人抑留地に送ろうとなさっているから…そうなる前に屋敷から出なくては…と。
…お祖母様が、憲兵隊に連絡をするかも知れないから密かに移り住まないといけない…て…」
…だから、誰にも何も言わずに屋敷を出た。
和葉に手紙で知らせることも叶わなかった。

緊張で再び冷たくなった瑞葉の手を力づけるように、速水は握り締める。
「…貴方のお祖母様…篠宮薫子様が貴方を遠ざけようとしていらしたのは事実らしいですね。
直接お話を伺いました。
…けれどそれは、一般的な外国人抑留地に送るのではなく、軽井沢にある…いわゆる富裕層の外国人が住まう居住地に移すことをお考えだったようです」
「…え…?」

意外すぎる言葉に、瑞葉はすぐには理解ができなかった。
「軽井沢には疎開した西洋人を中心とするコミュニティがあります。
そのほとんどは宣教師や牧師など教会関係者ですが、他にも開戦のために帰国できなくなった西洋人の方々は多くおられます。
…例えばベルギー大使夫人は英国のご出身の方です。
東京にいれば謂れなき差別や糾弾に遭うことを恐れて軽井沢に移り住むことを選ばれました。
そういった方々が集まっておられるのです。
そのコミュニティに瑞葉さんを住まわせようと考えていたと仰っていました」
「お、お祖母様が…?」
瞬きもせずに大きなエメラルドの瞳を見張る瑞葉に、速水は慈しみの口調で続けた。
「…お祖母様は仰っていました。
瑞葉さんのことを好きではないけれど、あの西洋人のような容姿で差別や…万が一の暴動に巻き込まれたら…それは自分の本意ではない。
篠宮家に生まれた子どもを悲惨な眼に合わせる気はない。
だから、軽井沢の外国人居住地に移そうと考えていた…と」

…あの冷たい眼差しでいつも自分を見遣っていた薫子が…?
そんなことを…?
あり得ない…。
…だって…だとしたら…。

恐ろしい考えが頭に過ぎる。

静謐な…けれど確信に満ちた男の声が鼓膜を打った。

「…貴方の執事は、貴方に嘘をお伝えしたのではありませんか?」





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