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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
…翌日の夜遅く、八雲は漸く訪れた。

黒い外套を身に纏った八雲が滑り込むように部屋に入ると、外の冷気がひんやりと冷たく刺すように流れ込んだ。

…その肩には、また降り始めたらしい新雪が僅かに降り積もっていた。

「…瑞葉様、1週間以上も伺えずに申し訳ありませんでした。
お元気でいらっしゃいましたか?」
…いつもなら、直ぐに八雲の胸に飛び込むのに…それはできなかった。
「…うん…元気…だよ」
ぎこちなく笑う瑞葉に眉を顰め、八雲はその大きく美しい手で瑞葉の額に触れようとした。
「どうされましたか?
あまりご気分が、優れないようですね…」
「…や…っ…」
反射的にその手を振り払い、後退りした自分に、瑞葉は驚く。

「…瑞葉様…?」
怪訝そうに瑠璃色の瞳が眇められる。
「…ご、ごめん…。
すこし…頭が痛いんだ…。
…今日は…もう寝む…。
…せっかく来てくれて…悪いけれど…」
…八雲の貌を見ることが辛く、背を向ける。
瑞葉は唇を噛み締めた。
…あんなに、会いたかったのに…。

今は八雲といることに、耐えきれないのだ。
…このまま、一緒にいたら…きっと尋ねてしまう。
…なぜ…嘘を吐いたのか…と。
そして、その答えを聞くのが怖いのだ。
…八雲の…真実の貌を見るのが…


ややあって、静かな…良く通る温かさを秘めた声が聞こえた。
「…分かりました。
ご体調が優れないのでしたら、すぐにお寝みになられた方がよろしいですね。
紳一郎様によくお願いをしておきます。
お薬を飲まれて、温かくされてお寝みください。
瑞葉様がお好きなキャンディボンボンが手に入りましたので、こちらに置いておきます。
…では、またまいります」

静かな足音が戸口に向かい始める。
瑞葉は咄嗟に振り返り、駆け出した。
胸の中の熱い想いが一気に爆ぜる。
男の長身の背中に強く縋り付く。
「八雲…!いや…!帰ってはいや…!」
八雲が素早く身体を反転させ、瑞葉を抱き竦める。
「…瑞葉様…!」
白い素足を爪先立ちさせ、男の唇に噛み付くようにキスをする。
…冷たい…雪の匂いのする唇…。

「…愛してる…八雲…僕には…お前しか…お前しか…」
「…瑞葉様…私もですよ…」

泣きじゃくる声は、男の狂おしい口づけに飲み込まれ、やがて熱く融かされていった…。

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