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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
…まるで愛の告白のような言葉に、瑞葉は表情を硬ばらせる。
「…何を…」
「…貴方に会いたかったのです」
「なぜ?僕を…馬鹿にするためですか?
八雲が僕を騙していて…可哀想に思えた?
僕はまだ八雲を信じています。
…貴方の仰ったことを鵜呑みにしたわけではありません」
つっけんどんに言い募るが、速水は柔らかな態度を崩さない。
「馬鹿になどしていません。
貴方がまだ八雲さんを信じていらっしゃるのも無理からぬことです。
…ですから、私のことを信じていただくために、瑞葉さんに私のことを知っていただくために、ここにまいりました」

意外な言葉に、瑞葉は眉を顰める。
「貴方のことを?」
「はい。私のことを信じていただくには、それしかありません。
…そして、私は貴方のことをもっと…もっと知りたいのです」
速水の大きな手が瑞葉の手にそっと重なる。
びくりと引き抜こうとするその手をしなやかに止められる。
真摯な真っ直ぐな眼差しが瑞葉に近づく。
「…不埒なことをするつもりはありません。
けれど、これだけは申し上げたいのです。
…私は、貴方が好きです。
貴方を初めて拝見した…あの夜から…ずっと…私の心は貴方に囚われてしまっているのです」
「な、何を…」
握り締められた手に力が込められる。
「…ずっと貴方のことが、この胸に残っていました…。
だから、和葉くんから手紙をもらった時は、運命だと思いました」
「やめて…ください…」
男の手は熱く、瑞葉の指を切なげに締め付ける。
…嫌悪だけではない不可思議な動揺が、瑞葉の胸に揺らめく。

…さながら、中世の騎士のようにその場に跪いた速水が、瑞葉の手を己れの頰にそっと押し付けた。

「…あっ…」

「私は貴方を幸せにしたいのです。
こんな暗く寂しい塔から解放して差し上げたいのです。
…貴方を…私のこの手で幸せにして差し上げたいのです」
「…そんな…僕は…」
…幸せです…そう言いかけた唇が震えた。

…幸せ…
幸せ…て、何だろう…。

…愛するひとを信じられること…
八雲を、信じられること…

…僕は…八雲を…信じているのだろうか…。

瑞葉の心を読み取るかのように、速水の清潔で端正な瞳が瑞葉を熱く見つめる。

「…どうか私が貴方を愛することを、お許しください」

息を飲む瑞葉の白い手の甲に、そっと切なげに男の唇が押し当てられた。









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