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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
…その夜から、速水は瑞葉のもとに夜ごと訪れるようになった。
時間は日付が変わる少し前…紳一郎たちは寄宿舎にいる頃なので、誰にも見咎められることはない。
…尤も、瑞葉のもとに八雲以外の人間が訪れることなど、彼らは想像だにしないだろう。
「…毎晩いらっしゃるなんて…憲兵隊のお仕事はそんなに暇なのですか?」
瑞葉の皮肉に、速水は嬉しげに笑った。
今夜の服装も品の良い私服だ。
黒いセーターに辛子色のスラックス…。
…憲兵隊なのに、国民服を着ないのだろうか…。
…速水が私服で訪れるのは、恐らくは軍服姿が瑞葉を萎縮させると慮ってのことだろう…。
「暇ではありませんが、貴方に逢いたい一心で仕事をこなしてきました」
「調子が良すぎますね。
…憲兵隊…て、貴方みたいな暢気な方でも務まるのですね」
つんと顎をそらせ、嫌味を言う。
そんな瑞葉の様子を愛おしげに見つめながら椅子に腰掛けると、速水は誠実に語り始めた。
「…実は私は憲兵隊に所属はしていますが、仕事は法務関係なのです」
「法務…?」
聞きなれない言葉に、瑞葉は美しい眉を寄せる。
「はい。憲兵隊には一般には知られてはいない様々な秘密裏の仕事があります。
諜報部が持ってくる玉石混交な情報を精査し、逮捕に当たるものなのか、否か…時には逮捕された容疑者の尋問にも立会い、法的に行き過ぎがないように見守りもします。
決して横暴で残虐な任務ばかりではないのです」
「…そう…なのですか…」
…少し、胸を撫で下ろす。
そんな瑞葉を優しく見つめ、速水は尋ねた。
「…私の話をしてもよろしいですか?
私がなぜ、憲兵隊を志したのか…を」
瑞葉は小さく頷いた。
速水は心地よさを感じさせる穏やかな声で語り始めた。
…「私は、大学で法律を学んでおりました。
ゆくゆくは弁護士になりたいと思っていたのです。
…けれど、ある日…私の恋人が誤認逮捕される事件が起きました。
それが、全ての始まりでした…」
時間は日付が変わる少し前…紳一郎たちは寄宿舎にいる頃なので、誰にも見咎められることはない。
…尤も、瑞葉のもとに八雲以外の人間が訪れることなど、彼らは想像だにしないだろう。
「…毎晩いらっしゃるなんて…憲兵隊のお仕事はそんなに暇なのですか?」
瑞葉の皮肉に、速水は嬉しげに笑った。
今夜の服装も品の良い私服だ。
黒いセーターに辛子色のスラックス…。
…憲兵隊なのに、国民服を着ないのだろうか…。
…速水が私服で訪れるのは、恐らくは軍服姿が瑞葉を萎縮させると慮ってのことだろう…。
「暇ではありませんが、貴方に逢いたい一心で仕事をこなしてきました」
「調子が良すぎますね。
…憲兵隊…て、貴方みたいな暢気な方でも務まるのですね」
つんと顎をそらせ、嫌味を言う。
そんな瑞葉の様子を愛おしげに見つめながら椅子に腰掛けると、速水は誠実に語り始めた。
「…実は私は憲兵隊に所属はしていますが、仕事は法務関係なのです」
「法務…?」
聞きなれない言葉に、瑞葉は美しい眉を寄せる。
「はい。憲兵隊には一般には知られてはいない様々な秘密裏の仕事があります。
諜報部が持ってくる玉石混交な情報を精査し、逮捕に当たるものなのか、否か…時には逮捕された容疑者の尋問にも立会い、法的に行き過ぎがないように見守りもします。
決して横暴で残虐な任務ばかりではないのです」
「…そう…なのですか…」
…少し、胸を撫で下ろす。
そんな瑞葉を優しく見つめ、速水は尋ねた。
「…私の話をしてもよろしいですか?
私がなぜ、憲兵隊を志したのか…を」
瑞葉は小さく頷いた。
速水は心地よさを感じさせる穏やかな声で語り始めた。
…「私は、大学で法律を学んでおりました。
ゆくゆくは弁護士になりたいと思っていたのです。
…けれど、ある日…私の恋人が誤認逮捕される事件が起きました。
それが、全ての始まりでした…」