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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
「…恋…人…?」
意外な言葉に、瑞葉は眼を見張る。
「ええ…。
…彼女は私の父の会社で働く秘書でした。
当時十九歳だった私より四つ歳上の…美しいひとでした。
艶やかな亜麻色の髪に榛色の瞳…。クロアチア人との混血でした。
だから語学が堪能で、父の経営する貿易会社でとても重宝がられていたのです」
それから…と、視線を巡らした。
…貴方に少し、似ていました」
そう言いながら瑞葉を見る眼差しに愛しみと…幽かな哀しみの色が宿る。

「…その彼女にある日、スパイ容疑がかかったのです。
理由は彼女がロシアの諜報部員とレストランで密会していたから…と。
もちろん濡れ衣です。
心優しい彼女は、何も知らずにその諜報部員に利用されたのです。
軍事機密を鞄に入れられ…それが嫌疑となりました。
私は父に頼み込み、優秀な弁護士を付けてもらい必死で彼女を助け出そうとしました。
彼女の無実を証明する証人を探し出し、証言をしてくれるように奔走しました。
…けれど…」

速水の凛々しい唇が苦しげに歪む。
「…連日の激しい尋問と、酷い恫喝…。
何より、謂れのない嫌疑がかかったことに潔癖な彼女は絶望し、独房で命を絶ってしまいました…」
「…そんな…!」
瑞葉は息を飲んだ。

「…まだ若く…何の力もない私は…彼女を救うことができなかった…。
亡骸は、密かに彼女の両親が引き取り、遠い異国で埋葬され…私はお葬式に行くことも許されなかった…。
私の両親が、スパイ嫌疑にかけられた秘書と私との噂が世間に流布することを恐れたのです。
…初めての恋人に…私は、何もしてやれなかった…」

苦渋に満ちた声が、男の口から絞り出される。
…その逞しい肩が、小刻みに震えていた。
余りに頼りなげな…計り知れない哀しみに満ちた男の姿がそこにはあった。

瑞葉はおずおずと、その肩に手を伸ばした。

速水が驚いたように貌を上げた。

「…あ…」
瑞葉は我に帰り、自分の大胆な行動に後悔した。
引っ込めようとしたその刹那、その手を強く握り締められた。
速水の大きな手の中で、瑞葉のほっそりした手がびくりと震える。

「…何もしません。
何もしないから…しばらくこのままでいてください」
懇願するような男の囁きに、瑞葉は黙って長い睫毛を伏せた。
そうして、速水の隣にそっと腰を下ろしたのだ。



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