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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
速水は瑞葉の手を握り締めたまま、静かに語り続けた。

…傍らの暖炉の灯りが、男の引き締まった端正な横貌に陰影を付けて浮かび上がらせる。
その横貌には、今まで気づかなかったどこか脆そうな…傷つきやすい色が滲んでいた。

淡々とした速水の声が続く。
「…哀しみが癒えるのには、時間がかかりました。
随分、荒れました。
酒や女で憂さを晴らして…馬鹿な真似をしました。
…けれど、ある日ふと…こんなことを繰り返しても彼女は決して喜ばないだろうと気づいたのです。
…彼女はとても真面目で志の高い人でしたから…」
速水の頰に、温かな笑みが戻った。
瑞葉の胸がじわりと温まる。
…それと同時に、胸の奥底が幽かに甘く…仄かに痛く疼いた…。
そんな自分が堪らなく居心地が悪かった。

「大学に戻り、必死で勉強をしました。
…法律、政治、経済…それから日本の警察や軍隊のことも…。
大学を卒業する頃には、私はひとつの決心を固めていました。
…憲兵隊に入ろう…と」

「…なぜですか?
貴方の恋人に、酷い目を合わせた憲兵隊に…」
咄嗟に疑問が口をついたのだ。

自分の憎むべき敵のような場所に、なぜ身を置こうとするのか…と。

速水の切れ長の清潔な眼差しが、瑞葉を見つめる。

「…私が、内部から憲兵隊を変えるためです」
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