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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
「…内部から…変える?」
意外すぎる言葉に、瑞葉は戸惑った。
…そんなこと、思いつきもしなかったからだ。
「…ええ、そうです。
私は、これから二度とサラのような不幸な犠牲者が出ないように、憲兵隊の構造を中から改革したいと思ったのです。
…そして、それが彼女への供養になるのではないかと…。
…道は決して容易ではありませんけれどね」
眼くばせをしてみせた速水は、いつものように明るかった。
「…サラさんと仰ったのですね。貴方の恋人のお名前は…」
…少し痛みを感じながら、その名前を口にした。
どうして…?
なぜ、心が痛いような気持ちになるのだろう…。
…いや、考えてはならない。
たまたまだ。
他人の人生の打ち明け話など初めて聞いたからだ。
だから、動揺しているのだ。
「…綺麗なお名前ですね…」
「ありがとうございます」
素直に嬉しそうに礼を言う男が、なんだか眩しい。
眼を伏せたまま、小さな声で尋ねる。
「…サラさんが亡くなって…お寂しいでしょう?」
…そうですね…と、
速水は言葉を選びながら答える。
「…サラは恋人でしたが、年上だったせいかどこか私の姉のような存在でした。
いつも優しく温かく導いてくれて…。
彼女と一緒にいると、穏やかで居心地が良かった…。
…だから、亡くなった今も何処で私のことを見守ってくれているような気がするのです」
「…そうですか…」
…自分はどうだろう…。
瑞葉はふと考えた。
…もし、八雲がこの世を去ったら…
こんな風に穏やかで、いられるだろうか…。
…八雲は…自分のすべてなのだから…。
瑞葉は苦しげに、唇を噛み締める。
自分の…すべて…のはずだ…。
八雲のことは、一から十まですべて信じられ、従えた。
疑う余地などなかった。
…疑うことなど、想像だにしなかった。
…けれど…今は…
「…サラは私の癒しでした。
…けれど…貴方は違う」
はっと貌を上げると、熱く滾るような情熱的な眼差しが瑞葉を見つめていた。
「…貴方を想うと、私は自分が自分ではなくなるような感情に襲われます。
苦しくて切なくて…けれど誰よりも何よりも愛おしい…!
こんな気持ちは、生まれて初めてだ。
貴方のお側にいたい…。
貴方を私の側に置きたい。
誰にも触れさせたくない。
誰にも見せたくない。
…私だけのものにしてしまいたい…!」
…速水の手に強い力が込められた。
意外すぎる言葉に、瑞葉は戸惑った。
…そんなこと、思いつきもしなかったからだ。
「…ええ、そうです。
私は、これから二度とサラのような不幸な犠牲者が出ないように、憲兵隊の構造を中から改革したいと思ったのです。
…そして、それが彼女への供養になるのではないかと…。
…道は決して容易ではありませんけれどね」
眼くばせをしてみせた速水は、いつものように明るかった。
「…サラさんと仰ったのですね。貴方の恋人のお名前は…」
…少し痛みを感じながら、その名前を口にした。
どうして…?
なぜ、心が痛いような気持ちになるのだろう…。
…いや、考えてはならない。
たまたまだ。
他人の人生の打ち明け話など初めて聞いたからだ。
だから、動揺しているのだ。
「…綺麗なお名前ですね…」
「ありがとうございます」
素直に嬉しそうに礼を言う男が、なんだか眩しい。
眼を伏せたまま、小さな声で尋ねる。
「…サラさんが亡くなって…お寂しいでしょう?」
…そうですね…と、
速水は言葉を選びながら答える。
「…サラは恋人でしたが、年上だったせいかどこか私の姉のような存在でした。
いつも優しく温かく導いてくれて…。
彼女と一緒にいると、穏やかで居心地が良かった…。
…だから、亡くなった今も何処で私のことを見守ってくれているような気がするのです」
「…そうですか…」
…自分はどうだろう…。
瑞葉はふと考えた。
…もし、八雲がこの世を去ったら…
こんな風に穏やかで、いられるだろうか…。
…八雲は…自分のすべてなのだから…。
瑞葉は苦しげに、唇を噛み締める。
自分の…すべて…のはずだ…。
八雲のことは、一から十まですべて信じられ、従えた。
疑う余地などなかった。
…疑うことなど、想像だにしなかった。
…けれど…今は…
「…サラは私の癒しでした。
…けれど…貴方は違う」
はっと貌を上げると、熱く滾るような情熱的な眼差しが瑞葉を見つめていた。
「…貴方を想うと、私は自分が自分ではなくなるような感情に襲われます。
苦しくて切なくて…けれど誰よりも何よりも愛おしい…!
こんな気持ちは、生まれて初めてだ。
貴方のお側にいたい…。
貴方を私の側に置きたい。
誰にも触れさせたくない。
誰にも見せたくない。
…私だけのものにしてしまいたい…!」
…速水の手に強い力が込められた。