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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
「…そんな…お母様が…?」
美しいエメラルドの瞳が、恐怖に凍りつく。
「…私は、大変愚かしいことに千賀子様を愛しておりました。
美しく可憐な心弱い伯爵夫人…。
なんとかお慰めしてお助けしたかった。
私の心を分かって欲しかった。
…けれど…あの売女は私を利用するだけ利用して、去っていった…。
瑞葉様をお産みになったあと、和葉様をお産みになり、千賀子様は篠宮家で尊敬と敬意を取り戻しました。
…和葉様は紛れもなく旦那様のお子様ですからね。
それ以来、私に対して怯え、避けるようになった。
私との過ちの一夜を…瑞葉様が私との不貞の結実だと暴露されるのを恐れたのでしょう。
…なんと愚かな…なんと安っぽく下らない女だ」
八雲は鼻先で嗤い、眼の前で茫然とする瑞葉を睥睨した。
…優しい…まるで愛を囁くような声が、その唇から溢れ落ちる。
「…私はあの女に復讐をしたかっただけなのですよ。
だから貴方を抱いたのです。
貴方に愛情なんてひと欠片もない。
自分の子どもだと思ったこともない。
…金色の髪に翠の瞳…。
遠い昔…私と母を捨てた、最低の父親に生き写しの容姿…。
愛する筈がない。
…あんな…下らない淫売の子ども…。
貴方は私の気晴らしの玩具にするくらいの使い道しかなかった。
だから、私は貴方を雁字搦めに束縛した。
私だけを見つめて、私だけを信じて、私だけに従うように飼育したのですよ。
…軽井沢の富裕な外国人居留地に移す?
とんでもない。
貴方に、私と離れて幸せになる権利はありません。
だから、ここに連れて来たのです。
…最後はこの塔に閉じ込めて…貴方を飼い殺すつもりで…ね」
絹を切り裂くような悲鳴が上がり、瑞葉がその場に崩れ落ちる。
「嘘だ…そんな…ふ、復讐だったなんて…嘘…嘘…!」
喘ぐように泣きじゃくる瑞葉に速水が駆け寄り、強く抱き締める。
八雲を激しく睨みつけ、速水は叫んだ。
「もうやめて下さい!
瑞葉さんをもうこれ以上傷つけないで下さい!」
「…ああ、愚かで稚い…けれど誰もが呆れるほどに美しい貴方には、こんな古びた塔に閉じ込めても、ちゃんと色男の騎士が現れるのですね。
…小賢しい番犬程度の騎士ですがね…」
…まるで三文ソープオペラだ。
馬鹿にしたように引き締まった片頰で、男は冷笑した。
美しいエメラルドの瞳が、恐怖に凍りつく。
「…私は、大変愚かしいことに千賀子様を愛しておりました。
美しく可憐な心弱い伯爵夫人…。
なんとかお慰めしてお助けしたかった。
私の心を分かって欲しかった。
…けれど…あの売女は私を利用するだけ利用して、去っていった…。
瑞葉様をお産みになったあと、和葉様をお産みになり、千賀子様は篠宮家で尊敬と敬意を取り戻しました。
…和葉様は紛れもなく旦那様のお子様ですからね。
それ以来、私に対して怯え、避けるようになった。
私との過ちの一夜を…瑞葉様が私との不貞の結実だと暴露されるのを恐れたのでしょう。
…なんと愚かな…なんと安っぽく下らない女だ」
八雲は鼻先で嗤い、眼の前で茫然とする瑞葉を睥睨した。
…優しい…まるで愛を囁くような声が、その唇から溢れ落ちる。
「…私はあの女に復讐をしたかっただけなのですよ。
だから貴方を抱いたのです。
貴方に愛情なんてひと欠片もない。
自分の子どもだと思ったこともない。
…金色の髪に翠の瞳…。
遠い昔…私と母を捨てた、最低の父親に生き写しの容姿…。
愛する筈がない。
…あんな…下らない淫売の子ども…。
貴方は私の気晴らしの玩具にするくらいの使い道しかなかった。
だから、私は貴方を雁字搦めに束縛した。
私だけを見つめて、私だけを信じて、私だけに従うように飼育したのですよ。
…軽井沢の富裕な外国人居留地に移す?
とんでもない。
貴方に、私と離れて幸せになる権利はありません。
だから、ここに連れて来たのです。
…最後はこの塔に閉じ込めて…貴方を飼い殺すつもりで…ね」
絹を切り裂くような悲鳴が上がり、瑞葉がその場に崩れ落ちる。
「嘘だ…そんな…ふ、復讐だったなんて…嘘…嘘…!」
喘ぐように泣きじゃくる瑞葉に速水が駆け寄り、強く抱き締める。
八雲を激しく睨みつけ、速水は叫んだ。
「もうやめて下さい!
瑞葉さんをもうこれ以上傷つけないで下さい!」
「…ああ、愚かで稚い…けれど誰もが呆れるほどに美しい貴方には、こんな古びた塔に閉じ込めても、ちゃんと色男の騎士が現れるのですね。
…小賢しい番犬程度の騎士ですがね…」
…まるで三文ソープオペラだ。
馬鹿にしたように引き締まった片頰で、男は冷笑した。