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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
「…まあ、いいでしょう。
私もそろそろお姫様の子守とお遊びには飽きたところです。
色男のロミオと駆け落ちなさるなら、なさればいい。
…ここから出て、貴方が本当に幸せになるというのなら…。
まずは、なさってみることです」
ぞんざいに言い放ち、八雲は瑞葉に背を向けた。
その背中に、掠れた小さな声が飛んだ。
「…許さない…」
ゆっくりと振り返る八雲の瑠璃色の瞳に映ったのは、銀細工で出来た短剣を握りしめる瑞葉の蒼白な貌であった。
「…お前を…許さない…!
お前を殺して…僕も死ぬ…!」
「瑞葉さん!」
速水が止める前に、瑞葉の華奢な身体が八雲の胸元に抱き付くようにぶつかる。
…熱い熱の塊が脇腹を掠める。
八雲は瑠璃色の瞳を細め、そのか細い背中を愛撫するように優しく抱いた。
「…ちゃんと持っていらしたのですね…この短剣を…」
「…お前が…何かあったときに…使うように…て…」
美しいエメラルドの瞳に透明な涙が盛り上がる。
「…そうです…。
貴方の誇りが傷付けられたときには…迷わずお使いなさいと…」
震える冷たい華奢な手…
その手に手を重ね、ゆっくりと握りしめる。
そのまま、己れに向かって短剣を突き刺す。
肉を切り裂く鈍い音が、瑞葉の手の内から聞こえる。
「…ひ…っ…!」
愛らしい口唇から悲鳴があがる。
「…これくらいでは、ひとは殺せないのですよ。瑞葉様」
あどけない悪戯を窘めるように、笑う。
「…や…八雲…や…くも…!」
取り乱す瑞葉の蒼白な頰に、八雲は一瞬だけ愛おしげに触れ…そののち、荒々しく瑞葉を突き放した。
「馬鹿な真似を…!」
異変に気付いた速水が駆け寄り、八雲の手から短剣を取り上げようとする。
「触るな」
短く、命令する。
「…私より、瑞葉様が死なないように見張っていろ」
八雲は棚に置かれたランプを、優雅な所作で寝台に放り投げた。
あっと言う間もなく、ランプの火はシーツに燃え広がり、紗幕を這い上がり始めた。
「何をするんだ!」
速水が瑞葉を抱きしめたまま叫ぶ。
黒煙が上がり、炎は寝台の天蓋を覆い出した。
燃え盛る寝台を背に、八雲はその氷の彫像のような美貌に楽しげな微笑を浮かべた。
「…終わりにするのだよ。何もかも…」
…だから…
…と、八雲はその長く美しい指を、戸口に向け指し示した。
「…お前は瑞葉様を連れて、この塔から出ろ」
私もそろそろお姫様の子守とお遊びには飽きたところです。
色男のロミオと駆け落ちなさるなら、なさればいい。
…ここから出て、貴方が本当に幸せになるというのなら…。
まずは、なさってみることです」
ぞんざいに言い放ち、八雲は瑞葉に背を向けた。
その背中に、掠れた小さな声が飛んだ。
「…許さない…」
ゆっくりと振り返る八雲の瑠璃色の瞳に映ったのは、銀細工で出来た短剣を握りしめる瑞葉の蒼白な貌であった。
「…お前を…許さない…!
お前を殺して…僕も死ぬ…!」
「瑞葉さん!」
速水が止める前に、瑞葉の華奢な身体が八雲の胸元に抱き付くようにぶつかる。
…熱い熱の塊が脇腹を掠める。
八雲は瑠璃色の瞳を細め、そのか細い背中を愛撫するように優しく抱いた。
「…ちゃんと持っていらしたのですね…この短剣を…」
「…お前が…何かあったときに…使うように…て…」
美しいエメラルドの瞳に透明な涙が盛り上がる。
「…そうです…。
貴方の誇りが傷付けられたときには…迷わずお使いなさいと…」
震える冷たい華奢な手…
その手に手を重ね、ゆっくりと握りしめる。
そのまま、己れに向かって短剣を突き刺す。
肉を切り裂く鈍い音が、瑞葉の手の内から聞こえる。
「…ひ…っ…!」
愛らしい口唇から悲鳴があがる。
「…これくらいでは、ひとは殺せないのですよ。瑞葉様」
あどけない悪戯を窘めるように、笑う。
「…や…八雲…や…くも…!」
取り乱す瑞葉の蒼白な頰に、八雲は一瞬だけ愛おしげに触れ…そののち、荒々しく瑞葉を突き放した。
「馬鹿な真似を…!」
異変に気付いた速水が駆け寄り、八雲の手から短剣を取り上げようとする。
「触るな」
短く、命令する。
「…私より、瑞葉様が死なないように見張っていろ」
八雲は棚に置かれたランプを、優雅な所作で寝台に放り投げた。
あっと言う間もなく、ランプの火はシーツに燃え広がり、紗幕を這い上がり始めた。
「何をするんだ!」
速水が瑞葉を抱きしめたまま叫ぶ。
黒煙が上がり、炎は寝台の天蓋を覆い出した。
燃え盛る寝台を背に、八雲はその氷の彫像のような美貌に楽しげな微笑を浮かべた。
「…終わりにするのだよ。何もかも…」
…だから…
…と、八雲はその長く美しい指を、戸口に向け指し示した。
「…お前は瑞葉様を連れて、この塔から出ろ」