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夜明けまでのセレナーデ
第1章 屋根裏部屋の約束
…子どもの頃のように、窓辺に並び肩を寄せ合う。
窓の外には早くも夕闇が迫り、辺りを薄紫色に染めだしていた。
…冬の日没は早い。
暁人は、今日中に江田島に向かわなくてはならないのだ。
本当はたくさん話したいことがあるのに上手く言葉にできない。
素直になれない自分が、腹立たしい。
穏やかに暁人が尋ねた。
「…薫は、これからどうするんだ?」
…薫は星南学院をギリギリの成績で卒業した。
その後、学院の付属大学になんとか潜り込むことができたのは、恐らく光が強力なゴリ押しをしたのに違いない。
清廉な礼也はそんなことは思いもつかぬだろうから、光に間違いないと薫は密かに推理している。
星南学院は富裕層の子弟が通う私学の大学だが、戦争が激しくなり授業は休講ばかりだ。
学徒出陣で大学生ですら次々と兵士に取られる時勢だが、いわゆる上流階級の家庭の学生ばかりのせいか、まだ戦地に赴くものは少ない。
軍部もその辺りは忖度しているのだ。
世の中は平等ではない。
…だから、尚更自分から志願して士官学校に進学した暁人が歯痒くて仕方ないのだ。
「…大学も殆ど休講だからな…。自宅学習ばかりだよ」
「そうか…。どうせもうすぐここを疎開するだろうし、まあそれも…」
「疎開はしない」
暁人の言葉を遮る。
「え?」
怪訝そうな貌の暁人を見上げる。
「僕はここにいる。
…ここでお前を待つ。
だから、必ず帰ってこい。帰ってこなかったら…殺す!」
暁人は睫毛を震わせ、微かに泣き笑いのような表情をした。
「…薫に殺されるなら本望だ…」
強く抱きしめられたが、薫は抗わなかった。
「…本当に、疎開しないの?」
「うん。しない。ここにいる。
ここで、お前を待ちたいんだ」
「…薫…!」
感極まったように、薫の貌を引き寄せる。
…キスされるかな…と、どきどきする薫を暁人はじっと見つめた。
「…薫。もし、ここにいてくれるなら、頼みがあるんだ…」
「何?何でも言ってよ」
暁人の口から、意外な言葉が溢れた。
「…お母様を頼んでもいいか?」
窓の外には早くも夕闇が迫り、辺りを薄紫色に染めだしていた。
…冬の日没は早い。
暁人は、今日中に江田島に向かわなくてはならないのだ。
本当はたくさん話したいことがあるのに上手く言葉にできない。
素直になれない自分が、腹立たしい。
穏やかに暁人が尋ねた。
「…薫は、これからどうするんだ?」
…薫は星南学院をギリギリの成績で卒業した。
その後、学院の付属大学になんとか潜り込むことができたのは、恐らく光が強力なゴリ押しをしたのに違いない。
清廉な礼也はそんなことは思いもつかぬだろうから、光に間違いないと薫は密かに推理している。
星南学院は富裕層の子弟が通う私学の大学だが、戦争が激しくなり授業は休講ばかりだ。
学徒出陣で大学生ですら次々と兵士に取られる時勢だが、いわゆる上流階級の家庭の学生ばかりのせいか、まだ戦地に赴くものは少ない。
軍部もその辺りは忖度しているのだ。
世の中は平等ではない。
…だから、尚更自分から志願して士官学校に進学した暁人が歯痒くて仕方ないのだ。
「…大学も殆ど休講だからな…。自宅学習ばかりだよ」
「そうか…。どうせもうすぐここを疎開するだろうし、まあそれも…」
「疎開はしない」
暁人の言葉を遮る。
「え?」
怪訝そうな貌の暁人を見上げる。
「僕はここにいる。
…ここでお前を待つ。
だから、必ず帰ってこい。帰ってこなかったら…殺す!」
暁人は睫毛を震わせ、微かに泣き笑いのような表情をした。
「…薫に殺されるなら本望だ…」
強く抱きしめられたが、薫は抗わなかった。
「…本当に、疎開しないの?」
「うん。しない。ここにいる。
ここで、お前を待ちたいんだ」
「…薫…!」
感極まったように、薫の貌を引き寄せる。
…キスされるかな…と、どきどきする薫を暁人はじっと見つめた。
「…薫。もし、ここにいてくれるなら、頼みがあるんだ…」
「何?何でも言ってよ」
暁人の口から、意外な言葉が溢れた。
「…お母様を頼んでもいいか?」