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夜明けまでのセレナーデ
第6章 Le Fantôme de l'Opéra
「君たちは本当にドラマチックな人生を生きてきたようだね。
…特にミズハは…ね」
フランス語のレッスンあと、メイドが運んできた熱いショコラをジュリアンは美味しそうに飲みながら、感心したように語った。
「…そう…でしょうか…」
曖昧な微笑を浮かべる瑞葉に、ジュリアンは感慨深く頷く。
プラチナブロンドの巻き毛に青い瞳…。
洒落た流行服に身を包むジュリアンは、絵に描いたような貴公子だ。
フランス人外交官の父親と日本人の母親と、日本に住んでいた年月も長いので日本語も流暢だ。
「うん。敗戦を経験したから…というだけじゃない。
それは日本人全員だからね…。
…ミズハからは、とても不思議で…掴み所のない複雑且つ深い感情の揺らぎのようなものを感じるんだ。
君はきっとそれを口にしたくはないのだろうね…。
誰にも…そう、ハヤミにも打ち明けることはないのだろう。
…君のその背筋に寒気が走るような美しさ…。
それはその秘密から来ているんだろうな」
華やかな容貌に似つかわしくないお告げのような言葉だ…。
「…そんな…」
瑞葉は長い睫毛をぎこちなく震わせて、桜色の唇を歪めた。
「…そんな秘密などありませんよ。ジュリアン」
…あったとしても…
小さく囁きながらゆっくりと立ち上がり、客間の窓を押し開ける。
爽やかなパリの風が吹き渡り、蜂蜜色の髪をさらさらと揺らす。
ジュリアンが眩しげに瑞葉を見上げる。
「…それはすべて、塔の中に置いてきました…」
…サン・ジェルマン・デ・プレの鐘が鳴る。
パリ最古のロマネスク様式の美しい鐘楼は、胸の奥に閉じ込めて鍵を掛けたはずのある光景を呼び起こす。
瑞葉はそっと瞼を閉じた。
「…もう、二度と蘇ることもないのです…」
…特にミズハは…ね」
フランス語のレッスンあと、メイドが運んできた熱いショコラをジュリアンは美味しそうに飲みながら、感心したように語った。
「…そう…でしょうか…」
曖昧な微笑を浮かべる瑞葉に、ジュリアンは感慨深く頷く。
プラチナブロンドの巻き毛に青い瞳…。
洒落た流行服に身を包むジュリアンは、絵に描いたような貴公子だ。
フランス人外交官の父親と日本人の母親と、日本に住んでいた年月も長いので日本語も流暢だ。
「うん。敗戦を経験したから…というだけじゃない。
それは日本人全員だからね…。
…ミズハからは、とても不思議で…掴み所のない複雑且つ深い感情の揺らぎのようなものを感じるんだ。
君はきっとそれを口にしたくはないのだろうね…。
誰にも…そう、ハヤミにも打ち明けることはないのだろう。
…君のその背筋に寒気が走るような美しさ…。
それはその秘密から来ているんだろうな」
華やかな容貌に似つかわしくないお告げのような言葉だ…。
「…そんな…」
瑞葉は長い睫毛をぎこちなく震わせて、桜色の唇を歪めた。
「…そんな秘密などありませんよ。ジュリアン」
…あったとしても…
小さく囁きながらゆっくりと立ち上がり、客間の窓を押し開ける。
爽やかなパリの風が吹き渡り、蜂蜜色の髪をさらさらと揺らす。
ジュリアンが眩しげに瑞葉を見上げる。
「…それはすべて、塔の中に置いてきました…」
…サン・ジェルマン・デ・プレの鐘が鳴る。
パリ最古のロマネスク様式の美しい鐘楼は、胸の奥に閉じ込めて鍵を掛けたはずのある光景を呼び起こす。
瑞葉はそっと瞼を閉じた。
「…もう、二度と蘇ることもないのです…」