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夜明けまでのセレナーデ
第6章 Le Fantôme de l'Opéra
オペラ座で観劇…ならば、絵の具のついたシャツとパンツという訳にはいかない。
瑞葉は一度自宅に帰り、シャワーを浴びて着替えをした。
バスローブを羽織り、濡れた髪をタオルで拭いていると、控えめなノックの音が聞こえた。
「はい…」
振り返ると、アンナが可愛らしいお辞儀をしながら入ってきた。
「お召し替えのお手伝いをいたします」
昨年、アルザス地方から出てきたばかりの朴訥な娘は生真面目に頭を下げた。
瑞葉は微笑んだ。
「ありがとう、アンナ。でも、大丈夫だよ。
一人で着替えくらいできる。
今日は僕も英介さんも晩餐は要らないから、アンナも仕事が済んだら帰っていいよ」
家に通いの使用人は二人…メイドのアンナと、ジュリアンが寄越してくれた女料理人のマルタンがいる。
若い男性二人の家だし、そんなに家事も必要ない。
それならきっと、早く自宅に帰りたいだろう。
だから用事済むと、帰宅するように瑞葉は声かけをしていた。
しかし、アンナは首を振り、新しいタオルで丁寧に瑞葉の髪を拭き出した。
「まだお髪が濡れています。
…ムッシュー・ハヤミにミズハ様のお世話をくれぐれも頼むと申しつかっています…。
ミズハ様はよく濡れたままのお髪でお出かけになるから、気をつけるようにと…」
瑞葉は苦笑した。
「まるで子ども扱いだな…」
「…それくらい、ムッシューはミズハ様を愛していらっしゃるのです」
少しむきになったように答えるアンナを鏡越しに見上げる。
…栗色の髪、ブルーグレーの瞳、そばかすの浮いた薔薇色の頬…。
素朴で清楚な可愛い娘だ。
「…アンナは英介さんが好きなんだね…」
アンナの瞳が見開かれ、動揺した様に首を振る。
「ち、違います!そんなことありません!」
「いいんだよ。
…英介さんはすごく良いひとだし、とても魅力的だ。
若い娘さんが好意を持ってもおかしくない」
手櫛で無造作に髪を搔き上げる。
立ち上がり、クローゼットの扉を開ける。
「…何を着ようかな…。
オーケストラやオペラじゃないから、正装じゃなくてもいいと思うんだけれど…」
独り言のように呟く瑞葉の背後から、やや思い詰めたようなアンナの声が飛んだ。
「…あの…。ずっと疑問だったんですけど…」
「うん?」
クローゼットを覗き込んだまま、返事をする。
「…ミズハ様は…本当にムッシュー・ハヤミを愛しておられますか?」
瑞葉は一度自宅に帰り、シャワーを浴びて着替えをした。
バスローブを羽織り、濡れた髪をタオルで拭いていると、控えめなノックの音が聞こえた。
「はい…」
振り返ると、アンナが可愛らしいお辞儀をしながら入ってきた。
「お召し替えのお手伝いをいたします」
昨年、アルザス地方から出てきたばかりの朴訥な娘は生真面目に頭を下げた。
瑞葉は微笑んだ。
「ありがとう、アンナ。でも、大丈夫だよ。
一人で着替えくらいできる。
今日は僕も英介さんも晩餐は要らないから、アンナも仕事が済んだら帰っていいよ」
家に通いの使用人は二人…メイドのアンナと、ジュリアンが寄越してくれた女料理人のマルタンがいる。
若い男性二人の家だし、そんなに家事も必要ない。
それならきっと、早く自宅に帰りたいだろう。
だから用事済むと、帰宅するように瑞葉は声かけをしていた。
しかし、アンナは首を振り、新しいタオルで丁寧に瑞葉の髪を拭き出した。
「まだお髪が濡れています。
…ムッシュー・ハヤミにミズハ様のお世話をくれぐれも頼むと申しつかっています…。
ミズハ様はよく濡れたままのお髪でお出かけになるから、気をつけるようにと…」
瑞葉は苦笑した。
「まるで子ども扱いだな…」
「…それくらい、ムッシューはミズハ様を愛していらっしゃるのです」
少しむきになったように答えるアンナを鏡越しに見上げる。
…栗色の髪、ブルーグレーの瞳、そばかすの浮いた薔薇色の頬…。
素朴で清楚な可愛い娘だ。
「…アンナは英介さんが好きなんだね…」
アンナの瞳が見開かれ、動揺した様に首を振る。
「ち、違います!そんなことありません!」
「いいんだよ。
…英介さんはすごく良いひとだし、とても魅力的だ。
若い娘さんが好意を持ってもおかしくない」
手櫛で無造作に髪を搔き上げる。
立ち上がり、クローゼットの扉を開ける。
「…何を着ようかな…。
オーケストラやオペラじゃないから、正装じゃなくてもいいと思うんだけれど…」
独り言のように呟く瑞葉の背後から、やや思い詰めたようなアンナの声が飛んだ。
「…あの…。ずっと疑問だったんですけど…」
「うん?」
クローゼットを覗き込んだまま、返事をする。
「…ミズハ様は…本当にムッシュー・ハヤミを愛しておられますか?」