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夜明けまでのセレナーデ
第7章 Fantôme de l'Opéra 〜epilogue〜

「…ハヤミ、失礼するよ」
半ば開けられた扉に軽くノックし、ジュリアンは居間に脚を踏み入れた。
速水は窓辺に佇み、ぼんやりと外の景色を見つめていた。
初夏に差し掛かったパリの陽光が、色濃く男の身体を照らす。
…東洋人にしてはすらりと背が高く、美しい筋肉がきちんと乗った逞しい後ろ姿だ。
上質なスーツも見事に着こなし、並み居る西洋人にも引けを取らない。
…しかしその姿は、胸が掴まれるほどに寂寥感に満ち、孤独であった。
「…ああ、ジュリアン…。こんにちは。
出迎えもせずに、失礼いたしました」
振り返り、礼儀正しく挨拶を返す。
…けれど、唇に張り付いたのは形ばかりの笑みだ。
「今、アンナにお茶を…」
呼び鈴を鳴らそうとする速水を手で制して
「気を遣わなくていい。
男二人でゆっくり話そう」
労わるように声を掛け、ソファに腰を下ろす。
「…あれから一ヶ月か…。
少しは、落ち着いたかい?」
向かい側に座った速水は、力無く首を振る。
「…情けないことに、全くです…。
…というか…私にはまだ信じられない…。
八雲が生きていて…そして…」
速水の凛々しい貌が、苦しげに歪んだ。
「…瑞葉とともに、消えてしまったなんて…」
その言葉に、どれほどの悲憤と哀切と…そして限りない恋人への熱い恋慕が込められているのか…
ジュリアンの胸にも、それらは切々と迫ってくるようであった。
半ば開けられた扉に軽くノックし、ジュリアンは居間に脚を踏み入れた。
速水は窓辺に佇み、ぼんやりと外の景色を見つめていた。
初夏に差し掛かったパリの陽光が、色濃く男の身体を照らす。
…東洋人にしてはすらりと背が高く、美しい筋肉がきちんと乗った逞しい後ろ姿だ。
上質なスーツも見事に着こなし、並み居る西洋人にも引けを取らない。
…しかしその姿は、胸が掴まれるほどに寂寥感に満ち、孤独であった。
「…ああ、ジュリアン…。こんにちは。
出迎えもせずに、失礼いたしました」
振り返り、礼儀正しく挨拶を返す。
…けれど、唇に張り付いたのは形ばかりの笑みだ。
「今、アンナにお茶を…」
呼び鈴を鳴らそうとする速水を手で制して
「気を遣わなくていい。
男二人でゆっくり話そう」
労わるように声を掛け、ソファに腰を下ろす。
「…あれから一ヶ月か…。
少しは、落ち着いたかい?」
向かい側に座った速水は、力無く首を振る。
「…情けないことに、全くです…。
…というか…私にはまだ信じられない…。
八雲が生きていて…そして…」
速水の凛々しい貌が、苦しげに歪んだ。
「…瑞葉とともに、消えてしまったなんて…」
その言葉に、どれほどの悲憤と哀切と…そして限りない恋人への熱い恋慕が込められているのか…
ジュリアンの胸にも、それらは切々と迫ってくるようであった。

