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夜明けまでのセレナーデ
第8章 新たなる運命
司と梅琳がお茶の支度を整え、居間を辞すと、礼也が痛ましげに口を開いた。

「…春馬の屋敷のことは聞いたよ。
東京大空襲の際に、焼失してしまったのだな」
「…はい…。
小父様は体調を崩された小母様を連れて、武蔵野の別邸に避難されていたので、ご無事だったんですけど…」
使用人にも暇を与えていたので、人的被害はなかった。
けれど…。

「…すべて燃えてしまいました。
あの広い客間や…小父様の書斎や…小母様のお好きだったサンルームや…。
…暁人の…」
薫は声を詰まらせた。
「…暁人の部屋も…屋根裏部屋も…暁人の机も…ベッドも…本も…何もかも…」
涙が溢れ落ちると同時に、薫の身体は逞しい腕に優しく包まれた。
「…薫…」
「…何もかも…焼けて…無くなってしまいました…。
暁人の大切にしていたあの屋敷はまるごと…!」

…大好きな父の葉巻とトワレの薫り…。
小さな頃、母に叱られ泣きじゃくる薫をいつも抱き上げ、慰めてくれたのは、父だった。
「どうした?薫。よしよし…。泣かなくていい。
さあ、お父様が一緒にお母様に謝ってあげるから…」

「…泣かないでおくれ、薫…。
春馬や絢子さんは無事だったんだ。それが何よりだ」
宥めるように背中を撫でる温かな手…。
その手に甘えるように、泣き続ける。
「…でも…!
僕は、暁人と約束したのに…!
暁人が戦地に行っている間、屋敷のことは任せて…て。
暁人が帰ってきたとき、屋敷がなくなっていたら…きっと悲しむ…!
僕は…何もできなかった…暁人のために…」

…何も…!
暁人は厳しい戦地で必死に戦っているのに…!
僕は…何ひとつ、暁人のために役に立てなかった…!


…大空襲のあと、薫は泉の制止を振り切り、大紋邸に駆けつけた。

…あの…趣味の良い洗練されたチューダー様式の屋敷は、跡形もなく焼け落ちていた。

二つ折りの大階段の残骸が、まるで哀しい夢の舞台跡のように、残っているだけだった…。

…ごめん…暁人…

お前の屋敷を、守れなかった…

…ごめん…ごめん…!


どんなに謝りたくても、暁人はいない。

会いたいのに…

暁人に…

会いたい…!


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