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夜明けまでのセレナーデ
第8章 新たなる運命
一頻り、泣きじゃくる薫をあやすように抱きしめたのち、礼也は優しく尋ねた。

「…薫は、暁人くんが好きなんだね…」
「…はい…好きです。
大好きです」
…二人の仲を怪し気に勘ぐられるかと思ったが、礼也はじっと薫を見つめると、穏やかに微笑った。
「…そうか…。
…それは、いいな」
礼也の大きな綺麗な手が、薫のすべらかな白い頰をそっと撫でる。
…何か愛おしいもの…とても切ないものを辿るように…

「…お前は益々、暁に似てきたな…。
本当に綺麗な花のような貌をしている…」
…甘いような、少し痛みを感じているような…そんな不思議な眼差しだ。

「…私は…暁を…」
…独り言のような呟き…
不意に口を噤み、微かに苦し気に首を振った。
「…え?」
訝し気に眉を寄せる薫に温かく笑い、額を付けた。
「…いや、いいんだ。なんでもない。
私の愚かしい感傷だ…。
…遠い遠い昔の…」

…そうしてぎゅっと薫を強く抱きしめると、真摯な口調で語りかけた。
「…暁人くんは必ず無事に帰ってくる。
けれど、将校の彼は少し時間がかかるかも知れない。
…だから、薫は強くなりなさい。
うんと強くなって、暁人くんを笑顔で出迎えてやりなさい」

「…父様…」
瞼の裏が熱くなる。
必死で涙を堪え、父の肩口に貌を押し付ける。
「ありがとう、父様」
…そうして…
「やっぱり父様が大好き!
…母様に涙なんか見せたら、散々嫌味を言われるのに決まってるもの。
あの鬼ババめ…!」
そう憎々し気に毒付くと、礼也はかつてのように朗らかに声を立てて笑った。

「鬼ババは言い過ぎだ。
私の世界一愛おしい女王様だぞ」
父はチャーミングなウィンクをすると、そう言い放ったのだ。





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