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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「…お綺麗な…まるで美しい絵画からから抜け出したようなお方でしたね」
薫の居間にて…ナイトキャップ代わりのワインを薫に注ぎながら、泉が感心したように言った。

「へえ。泉が女性を褒めるなんて珍しいね」
眼を上げると、神妙な貌をした泉が頷いた。
「私は仕事柄たくさんの高貴な身分の奥様やお嬢様を拝見していますが、衣都子様は特別です。
…あのように周りの空気を変えてしまうような際立ったお美しい方は初めて拝見いたしました」
「絶賛だな。
…だけど…まあ、確かにそうだな…。
…すごく綺麗なひとだよ…」

…綺麗なだけじゃなくて、虚飾がなくて素直で…
あんな女の子も世の中にはいるんだな…。

薫の周りにいた少女たちは皆、一様にプライドが高く、常につんと澄まし返っていた。
お茶会や夜会で、少女たちと接する機会は度々あったが、彼女たちは薫が少しでも自分に興味のない素振りをしたり淡々と相手をしているとすぐさま不機嫌になった。
彼女たちの髪型やドレスを褒めないと膨れて、違う女の子とワルツを踊ると眉を逆立てた。

…何様なんだよ、全く!
薫が女の子にうんざりし、嫌いになったのはそんな煩わしい経験があったからだ。

…けれど、絹は違った。

薫は、昼間の出来ごとをふと思い出す。

…「さあ、絹さん。スコーンを召し上がって下さい。
メイリンの自信作ですよ。
メイリンは中国人なんですが、いつか故郷に帰った時に茶館を開くのが夢だそうで、色々な料理やお菓子が作れるのですよ」

明るく誘うと絹は慎ましく頷き、薫を真摯な眼差しで見上げた。
「…薫さん、私にいただき方を教えてください。
私、何も知らないので薫さんにご不快な思いをさせるかもしれません。
ですから、色々なマナーを教えていただきたいのです」



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