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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「…どういう風の吹きまわし?
それとも、女に宗旨替えしたのか?」
紳一郎が学院の応接室の隅、書棚の陰からソファに座る絹を見遣りながら皮肉めいた口調で笑った。

「ちょっと!紳一郎さん!」
薫が咎めるのを片手で制し、紳一郎は涼しい顔をした。
「別にいいじゃないか。
暁人くんがいない間にちょっと美人と浮気したって、バチは当たらないさ」
「違いますよ!
…言ったでしょう?
今、うちでお預かりしている陛下の庶子の宮様だって」
語尾は声を潜めた。
…絹のことは限られた人しか知らない秘密事項だからだ。

「ああ、聞いたよ。
…陛下にあんなにお美しい姫宮様があらせられたとはね…。
まさに青天の霹靂だ。
…確かに皇后様との間の姫宮様方では、束でかかっても太刀打ちできないような美女だな。
これは陛下も気に掛けるだろうな。
…いや、皇后様はもっとヤキモキされているだろうけどね」
物珍しげにしげしげと絹を見回す紳一郎の腕を引く。
「紳一郎さん!
絹さんは…衣都子さんは素直で大人しい方なんです。
くれぐれも意地悪や皮肉を言わないでくださいよ」

紳一郎が切れ長の艶めいた一重の眼差しでちらりと薫を見遣った。
「…薫…お前、やっぱり宗旨替え…」
「いいから!
紳一郎さんもこちらに来てください!」
皆まで言わさずに薫は紳一郎の手を掴み、絹の前まで進んだ。

「絹さん。紹介いたします。
こちらは僕の先輩でこちらの教師と舎監をしている鷹司先輩です」

絹は素早く立ち上がり、深々と頭を下げた。

「絹と申します。
不躾にお邪魔いたしまして申し訳ありません」



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