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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「…俺と絹は幼馴染なんです。
俺の家は絹が引き取られていた寺のすぐそばの…浅草の仲見世の鰻屋です。
絹があの寺に来たときから一緒に遊んで、学校に行って…。
絹をずっとそばで…一番そばで見てきました」
…さっきから成田の言葉の端々が、薫の神経を逆撫でして仕方がない。

「それなのに絹は…急に居なくなって…」
薫はきっと成田を睨んだ。
「ちょっと君!成田くん!」
思わず出た大きな声に、一堂が薫を見る。
「はい…?」
「絹、絹ってさっきから馴れ馴れしいな。
絹さん…いや、衣都子さんは宮様だよ?
もちろん知っているよね?」
「は、はい…」
突然の薫の剣幕に、成田は面喰らったように瞬きをした。
「宮様相手に呼び捨てはないだろう?
せめて、さん付けで呼びなさい。
不敬だぞ」
自分でも驚くほどに険しい声が出る。
…なぜ?
なぜ、僕は怒っているのかな…。
訳がわからない…。
けれど、何だか…どうしようもなく腹立たしいのだ。

「は、はい。…すみません…」
生真面目な性格らしく、成田はすぐ様に詫びた。
…そうすると、自分がとても意地の悪い嫌な人間のように感じ、更に気が滅入る。

紳一郎がのどかに口を開いた。
「…いいんじゃないの?呼び捨てにしたって。
…二人は恋人同士だっていうんだからさ」
「…紳一郎さん…!」

…本当に…喰えない奴とはこのひとのことだ…。
薫は涼しい貌で薄ら笑いを浮かべる紳一郎を睨んだ。
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