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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「いいえ。俺が浅はかでした。
…たしかにそうです。
絹は…絹さんは、姫宮様です。
それは…お寺の住職から聞いてずっと知っていました。
小さな頃から一緒に過ごしてきたので、つい忘れがちになっていましたが…」
「…龍ちゃん…そんな…いいのよ」
切なげに絹が成田を見上げる。
「龍ちゃん、ごめんなさいね。何も言わないで居なくなってしまって…。
…私、お父様に縣様のお屋敷でお世話になることは誰にも言ってはならないと言い渡されていたの。
…だから、落ち着いた頃に龍ちゃんに会いに行こう…と心に決めていたの。
そうしたら薫さんのお勤め先が星南学院だと聞いて…。
龍ちゃんが働いている学校だ!て…。
嬉しかった…」
美しい貌が花咲くように明るく輝いた。

「絹…絹さん…」
険しい薫の眼差しに気づき、慌てて言い直す。
「…会いたかった…。絹さん…」
がっしりとした小麦色の手が、絹の白くほっそりとした手を握り締める。
「…龍ちゃん…。私もよ…」

「…お茶を運ばせます。
積もる話もあるでしょう。
お二人でごゆっくり語り合われてください」

薫を促し立ち上がった紳一郎を、咎める。
「紳一郎さん!」
「ひとの恋路を邪魔するものはなんとやら…だよ。
…行こう」
薫は不承不承、紳一郎のあとに続いたのだった。

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