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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「…まあ、薫さん。よくいらしてくださったわね…」
絢子は寝台に上半身を預けたまま、それでもとても嬉しそうにその白く痩せ細った手を差し伸べた。
恭しくその手を押し戴き、ひんやりとした白い華奢な甲に敬愛のキスをする。

「お久しぶりです。絢子小母様。
ご無沙汰いたしまして申し訳ありません」
眼を上げて思わず息を飲む。
白いレースの寝間着を身に纏った絢子はあまりに儚げな…か細い少女のような容姿をしていたのだ。

薫の肩を抱き、大紋は陽気に声をかけた。
「本当に、よく来てくれたね。
学校法も変わって、仕事も忙しいだろう?」
薫をじっと見つめて温かな眼差しで呟く。
…君は相変わらず、綺麗だな…。

「…こんなに弱ってしまって、恥ずかしいわ…。
光様は、変わらずにお強くて輝くようにお美しいでしょうね…」
恥じらうように微笑む絢子の肩に薄いローブを掛け、大紋は優しく語りかける。
「君も変わらずに可愛らしいよ、絢子…。
昔と少しも変わらない…。
出会った頃の君のままだ…」
…優しい…けれどどこか、痛ましいような微かに哀しみが透けるような慈愛に満ちた声だ。

「…貴方…」
絢子ははにかむように瞳を上げ、そんな妻に大紋はその清らかな額に軽くキスを落とした。

…仲睦まじい夫婦の美しい風景が、そこには静かに存在していた。

けれど、それはあまりに危うい均衡の上に成り立っている姿なのだと、薫は知っていた。



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