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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
…ここ、武蔵野の緑深い丘陵地に建つこじんまりとした屋敷は大紋春馬が軽井沢の別荘への疎開を拒んだ妻のために戦火が激しくなる少し前に購入した住まいであった。

「私が東京に居なくては、暁人さんが帰ってきた時に寂しがりますわ」
既に精神がやや不安定になった絢子はそう言って泣いたのだと言う。

高名なドイツ医師が近年まで住んでいたというその屋敷は和洋折衷な品と風情がある佇まいをしている。
部屋は十ばかりと少ないが
「…家政婦と料理人が一人ずつの少ない所帯だからちょうど良いのだよ」
大紋はそう言って笑った。

…今まで、東翼、西翼合わせて部屋数三十はある豪奢な屋敷に住んでいたのに、彼はそれを口にすることも、懐かしがることも決してなかった。

彼は鳥居坂の屋敷が空襲で跡形もなく焼失してしまった時も、決して嘆きはしなかった。
いや、嘆くことは許されなかったのだ。

屋敷の焼失を聞いた絢子は子どものように泣きじゃくり取り乱したからだ。

「暁人さんのお部屋も全て焼けてしまったの?
暁人さんの本も?お洋服も?アルバムも?何もかも?」
戦争と、最愛の息子の出征は、絢子の繊細で脆い精神を少しずつ壊し始めていたのだ。

大紋は辛抱強く絢子を慰め続けた。
「…絢子。屋敷はまた建て直せばいい。
物なんかより想い出だ。
暁人が帰ってきたら、また三人で新しい想い出を作っていけばいいんだ。
屋敷など無くなっても、君が元気でいて、暁人を笑顔で迎えることが何より大切なんだよ」

大紋は薫から見ると、献身以外のなにものでもない慈愛の精神で、妻を支え…尽くし続けているのだった。

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