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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「…薫くん。最近、華やかなお客様が松濤の屋敷にいらしたようだね」

お茶を飲みながら、大紋が楽しげに切り出した。
一瞬驚く薫に、絢子が儚げに笑う。
「光様に小包みとお手紙をいただいたのよ。
宮様をお預かりしているのですって?
さすがは縣家だわ。
とてもお綺麗なお方なのでしょう?
…やはり、薫さんのお相手に…という陛下のお考えなのかしら?」
「い、いいえ、そんな…」
誤解されては困ると慌てて首を振ると、絢子が愛らしい貌に優し気な微笑みを浮かべながら首を傾げた。

「よろしいじゃない。
薫さんも暁人さんも、ご結婚されるには良いお年頃だわ。
…暁人さんもあとひと月ほどで戦地からお帰りになるし…」

その言葉に思わず声が出るほど驚き、大紋を振り返る。

大紋は静謐な中に微かな痛ましい色を浮かべた眼差しで、薫に目配せをした。

絢子は夢見る少女のような表情で、唄うように語り始めた。
「…暁人さんがお帰りになって落ち着いたら、お見合いをしていただかなくちゃならないわ。
暁人さんがいらっしゃらない間に、お見合い話が山のように来てしまって、大変だったの。
お断りするのも失礼だから、一応お相手のお嬢様方にお会いするだけはしなくては…ね…?
…でも、本当にご結婚が決まったら寂しいわ…。
ねえ、貴方?直ぐにご結婚なさらなくてもよろしいわよね?
婚約期間を長く設けても、よろしいわよね?」

茫然と絢子を見つめる薫を他所に、大紋は優しい穏やかな声で、答えた。

「…ああ、そうだね。
しばらく婚約という形にしたら良いね。
暁人も新しい仕事を探さなくてはならないし、大学に入り直すのも良いだろうしね」

絢子がはしゃいだ声で嬉し気に笑った。

「それがいいわ!
私、暁人さんには貴方みたいな素晴らしい弁護士になっていただきたいの。
大学に入って法律をお勉強して、ご立派な弁護士になっていただきたいわ。
ねえ、薫さん。
それがよろしいと思わなくて?」

薫は強張る唇に、幽かな笑みを浮かべることしかできなかった。
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