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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
大紋の腕の中…居間のマントルピースの上に飾られた暁人の写真立てに視線を移す。

…馬上の姿…
あれは高等部の折に、馬術大会で優勝した時のものだろうか…。
シルクハットに黒い燕尾服のジャケット、ボウタイに細身の乗馬パンツ、黒革のロングブーツ…。
馬術大会での正装だ。
大紋譲りの端正な貌立ちと理知的な雰囲気が、少年らしからぬ堂々とした風格すら感じさせる…。
…写真の暁人は、まるで薫に笑いかけるようにこちらを見つめていた。

…暁人…。
その名を呼ぶと、胸の中が温かな紅茶を飲んだ時のようにじんわりと暖まる。

…大好きだよ、暁人…。
そっと胸のうちで、告白する。

薫は大紋を力づけるように明るく笑い、彼を見上げた。

「小父様が吐かれた嘘は、もう間もなく嘘ではなくなります」
大紋が眉を寄せる。
「…薫くん…?」

「もうすぐ暁人は帰ってくる。
小父様と小母様と…そして僕の元へ…」

…必ず、帰ってくる。僕の元へ…。
自分に言い聞かせるように、力強い声で繰り返す。

「…薫くん…。
ありがとう…」
いつもの落ち着いた頼もしくも温かな笑みを浮かべ、大紋は薫の頰をそっと撫でた。
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