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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
ベッドにうつ伏せに眠り込む司を、泉は飽かずに眺める。

…一糸まとわぬその肌は、きめ細かく白く透き通るように滑らかで…その背中や肩には、泉が与えた口づけの痕が紅く濃厚に散らされていた。

…司との性交は、一年半ぶりであった。
けれど、なんの違和感もぎこちなさもなく、ひたすらお互いの身体に溺れ、愛し合った。

「…浮気…しなかった?」
一度交わったのち、名残惜しく濃密な口づけを交わしあう。
甘い息を弾ませながら司が上目遣いで尋ねた。
泉は呆れたように眉を上げる。
「するわけがない。
…大体戦時下だぞ?浮気どころじゃない。
…お前は…?」
琥珀色の潤んだ瞳が蠱惑的に笑った。
「何だ?」
不安になり、強く抱きしめながら尋ねる。

「…真紀に会ったよ」
その薄紅色の美しい唇から溢れた思わぬ名前にひやりとした。
「真紀って…あの新城真紀か?」
「そう。昔の恋人」
呑気な声で答える司にぎょっとする。

…新城真紀…。
かつて司を騙し打算的な結婚をして、司を捨てた傲慢な医学生だ。
「あの野郎とどこで会ったんだ?」
語気強く詰め寄る泉をどこか愉しげに見上げる。
「軽井沢のコミュニティだよ。
奥さんと疎開していたんだ。
ある夜会で偶然会ったよ。
僕を見てすごく驚いていた」
「それで⁈」
「…誘われたよ。
また、付き合わないかって…」
「あのクソ野郎!
で⁈どうしたんだ⁈」
烈火の如く怒りを露わにする泉にくすくす笑いながら、白い腕を絡めてきた。
「蹴り倒して帰ってきたよ。
馬鹿にするな…て」
「…司…」
ほっとする泉に馬乗りになり、司は妖艶に…愛おしげに囁いた。
「…だって僕は泉だけのものだもの」
「…司…」
「…だから…」
しっとりと絹のような感触の身体が覆い被さり、新たに兆した熱を押し付けられる。

…もっと…もっと…愛して…

口移しに愛と情慾を乞われ、泉の中の野蛮な獣性が再び熱く目覚めた。

「司…!」

…二人が淫らで婀娜めいた獣と化し、再び激しく愛し合うのに時間はかからなかった。




〜恋人たちの夜話〜 fin




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