この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「龍ちゃん!」
厨房の入り口に成田を見つけた絹は、一目散に駆け寄った。
シェフの制服姿の成田が驚いたように眼を見開いた。
「絹…!…絹…さん…」
絹は可笑しそうにくすりと笑った。
「絹でいいわよ。龍ちゃん。
…薫さんはいないわ」
振り返り、薫の姿が食堂にないのを認めると、成田はほっとしたように、絹に笑いかけてきた。
一見取り付きにくい硬質な男らしい貌が柔らかく崩れる。
「良かった…。
…縣先生は、なんだか俺に厳しいからな…」
ばつが悪そうに呟く成田の手をそっと握りしめる。
「薫さんはとても優しい方なのよ。
…きっと礼儀作法に厳しくていらっしゃるだけだわ」
「…うん…。
でも、あんなに人形みたいに綺麗な貌で睨まれるとさ、おっかねえよ…」
ぼやく成田に小さく笑い、ふと…
「…そうね。…本当にお綺麗な方よね…。
…私、あんなに綺麗な男のひと…初めて見たわ…」
…想いを馳せるのは、薫に初めて会った日のことだ…。
敗戦後の東京の街は、見るも無残な爆撃跡の廃墟が多いのに…西洋のお城のような豪奢な屋敷に通された。
それだけでも信じられなかったのに、絹の前に不意に薫が姿を見せたのだ。
絹は我が目を疑った。
…お伽話の王子様が現れた…。
本当に…そう思ったのだ。
厨房の入り口に成田を見つけた絹は、一目散に駆け寄った。
シェフの制服姿の成田が驚いたように眼を見開いた。
「絹…!…絹…さん…」
絹は可笑しそうにくすりと笑った。
「絹でいいわよ。龍ちゃん。
…薫さんはいないわ」
振り返り、薫の姿が食堂にないのを認めると、成田はほっとしたように、絹に笑いかけてきた。
一見取り付きにくい硬質な男らしい貌が柔らかく崩れる。
「良かった…。
…縣先生は、なんだか俺に厳しいからな…」
ばつが悪そうに呟く成田の手をそっと握りしめる。
「薫さんはとても優しい方なのよ。
…きっと礼儀作法に厳しくていらっしゃるだけだわ」
「…うん…。
でも、あんなに人形みたいに綺麗な貌で睨まれるとさ、おっかねえよ…」
ぼやく成田に小さく笑い、ふと…
「…そうね。…本当にお綺麗な方よね…。
…私、あんなに綺麗な男のひと…初めて見たわ…」
…想いを馳せるのは、薫に初めて会った日のことだ…。
敗戦後の東京の街は、見るも無残な爆撃跡の廃墟が多いのに…西洋のお城のような豪奢な屋敷に通された。
それだけでも信じられなかったのに、絹の前に不意に薫が姿を見せたのだ。
絹は我が目を疑った。
…お伽話の王子様が現れた…。
本当に…そう思ったのだ。