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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
…年頃になった絹は、ひっそりと隠れるように暮らしているにも関わらず、周囲から評判になるほどの美少女に成長していた。
住職夫妻の絹に対する対応は、更に手厚く丁寧になっていった。

学校は中学までしか通わせてもらえなかったが、その代わりに週に数回、初老の品の良い女性が家庭教師に訪れるようになった。
理由はやはり何も教えてはもらえなかった。

女教師は様々な教科を教えてくれたが、やはり絹には大変丁重に応対しつつも淡々と接してきた。
誰もが同じ不可思議な対応であった。

その女教師も絹が十八歳になると、暇乞いを告げた。

「私のお役目も今日まででございます。
絹さんは、本当に優秀な生徒でいらっしゃいました。
…よく素直に真面目にお勉強してくださいましたね」

女の眼に初めて名残惜しげな温かな色を認めた瞬間、絹は口走っていた。
「あの、先生。先生は、私の出生についてご存知ですか?
私の両親についてご存知ですか?」

女教師は瞬間、顔色を変え立ち上がった。
「先生!教えてください!私は一体…」
追い縋る絹を一度だけ振り返り、苦しげな表情で小さく呟くように答えた。
「…私の口からは何も申し上げられません。
…けれどいずれ、お分かりになる日が来るかと存じます」

そうして…
「ご機嫌よう、絹様。
どうかくれぐれもお健やかにお過ごしくださいませ」
最敬礼をすると、女は部屋を後にしたのだった。
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