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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
…絹が十九歳の誕生日を迎えた初秋のことだった。
風邪をひいた住職夫人の代わりに、絹は根津にある本院の厨の手伝いに出かけることになった。
住職は初めての場所に絹を連れて行くことを躊躇したが、女手が足りないことも知っていたので
「くれぐれも目立たぬように、頼みますよ」
と注意をした。
護摩焚きの法要に参加する住職は一足先に寺を出た。
本院までは龍介が送ってくれた。
「絹はめったに外に出ないから、方向音痴だろう」
そう言って、龍介は絹を眩しそうに見つめた。
…寺の裏方の手伝いと言うことで清楚な白地の紬の着物を身に纏った絹は、いつもより大人びて…また、その類稀なる美貌は冴え冴えとして見えたのだ。
「ありがとう、龍ちゃん」
龍介は絹にとって幼い頃からの数少ない友人のひとりだった。
…けれど、最近は龍介と一緒にいると、胸がどきどきしたり、声が上擦ったりして以前のように屈託無く接することができない。
…小さな時は、手を繋いだりおんぶしてもらったりしていたのに…。
今では少し離れて、こんな風に龍介の大柄で頑強な背中を見つめるのがせいぜいだ。
「どうした?絹」
遅れて歩く絹を心配そうに振り返る龍介の貌は雄々しくて、一瞬息を詰めた。
「…ううん。なんでもない」
明るく首を振ると、龍介は綺麗な白い歯を見せて笑った。
…最近は家業の鰻の捌きも任されているという龍介は、同い年と思えぬほどに、頼もしく見える。
「そうか。緊張してるのか?絹は人見知りだからな。
気負わずに頑張れ。
終わる頃にまた迎えに来てやる」
優しい言葉に嬉しくなり、絹はやっと微笑んだ。
「ありがとう、龍ちゃん」
龍介は照れたように眼を細めると、再び前を向き力強く歩き出した。
風邪をひいた住職夫人の代わりに、絹は根津にある本院の厨の手伝いに出かけることになった。
住職は初めての場所に絹を連れて行くことを躊躇したが、女手が足りないことも知っていたので
「くれぐれも目立たぬように、頼みますよ」
と注意をした。
護摩焚きの法要に参加する住職は一足先に寺を出た。
本院までは龍介が送ってくれた。
「絹はめったに外に出ないから、方向音痴だろう」
そう言って、龍介は絹を眩しそうに見つめた。
…寺の裏方の手伝いと言うことで清楚な白地の紬の着物を身に纏った絹は、いつもより大人びて…また、その類稀なる美貌は冴え冴えとして見えたのだ。
「ありがとう、龍ちゃん」
龍介は絹にとって幼い頃からの数少ない友人のひとりだった。
…けれど、最近は龍介と一緒にいると、胸がどきどきしたり、声が上擦ったりして以前のように屈託無く接することができない。
…小さな時は、手を繋いだりおんぶしてもらったりしていたのに…。
今では少し離れて、こんな風に龍介の大柄で頑強な背中を見つめるのがせいぜいだ。
「どうした?絹」
遅れて歩く絹を心配そうに振り返る龍介の貌は雄々しくて、一瞬息を詰めた。
「…ううん。なんでもない」
明るく首を振ると、龍介は綺麗な白い歯を見せて笑った。
…最近は家業の鰻の捌きも任されているという龍介は、同い年と思えぬほどに、頼もしく見える。
「そうか。緊張してるのか?絹は人見知りだからな。
気負わずに頑張れ。
終わる頃にまた迎えに来てやる」
優しい言葉に嬉しくなり、絹はやっと微笑んだ。
「ありがとう、龍ちゃん」
龍介は照れたように眼を細めると、再び前を向き力強く歩き出した。