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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
厨の裏手には、小さな物置き小屋があった。
男は絹をその中に引き摺り込み、雑多に置かれた筵の上に絹を押し倒した。
「…お前が美しすぎるのが悪いのだ…。
こんなに綺麗な顔をして…どうせ生娘でもあるまい。
私が愉しませてやろう。大人しくするのだ」
常軌を逸した僧侶の言葉に、絹は必死で抵抗を続けた。
「嫌…!離して…!だれか…だれか来て…!」
「叫んでも無駄だ。
お偉いお上人様方は宴会の真っ最中さ。
…ここでじっくり可愛がってやる…。言うことを聞け」
ほくそ笑みながら絹の上に馬乗りになり、帯に手を掛ける。
「嫌!嫌!離して…!だれか…だれか…!」
泣き叫び、もがく。

男に…まさか僧侶に暴行されるなんて…。
我が身に起こっているこのおぞましい出来事が現実とは思えなかった。

男は必死の抵抗をする絹の華奢な両手を荒々しく一纏めにし、下卑た笑いを漏らした。
その熱い手で絹の着物の裾をはだけてゆく。
白絹のようにきめの細かな美しい脚が男の目の前に露わになる。
僧侶は息を飲んだ。
「…なんて綺麗な肌だ…透き通るように白く…真珠のような光を放ち…。
…肉付きはまだおぼこいが、それもいい…」
僧侶の劣情に汗ばんだ掌が、興奮したように絹の白い太腿を撫で回す。
「いや…!はなして…!やめ…て…!」
絶望感に苛まれ、か細い泣き声を上げる。
若い男の力は岩のように頑強で、跳ね返そうと試みてもびくともしないのだ。

…このまま…乱暴されてしまうなんて…いや…!
「助けて…!だれか…助けて…!」
最後の力を振り絞って叫んだ絹の口を煩げに塞ぎ、僧侶は襟元に手を掛けた。
「黙れ!大人しくしろ!私は京都の名寺の後継者だ。
何の不満がある!勿体ぶるな。卑しい下女のくせに!」
苛立たしげに僧侶の浅葱色の法衣がたくし上げられ、絹の白い脚を乱暴に押し開こうとする。

…もう…だめだ…!
悲憤と絶望に唇を噛み締めた瞬間…
ふわりと身体が軽くなり…
覆い被さっていた僧侶の身体が引き剥がされ、一瞬にして小屋の壁に叩きつけられていた。

「この生臭坊主野郎!絹になにをしやがる!」
聞き覚えのある頼もしい声…。
絹は涙に滲む瞳で、見上げる。

絹を庇うように仁王立ちになり、怒りに眼をぎらつかせているのは龍介であった。

「…龍ちゃん…」




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