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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
薫の部屋は広々とした東翼の二階、一番奥にあった。
絹の部屋は同じ階の南向きのゲストルームだったのだが、彼の部屋を訪ねるのは初めてだ。

緊張しながら、薫の部屋の前に立つ。

…部屋の扉は、なぜか少しだけ開いていた…。

覗いてはならない…と思いながら、心と裏腹に絹の視線は中に吸い寄せられてゆく…。

…薫は部屋の窓辺の椅子に腰掛け、手にした写真立てをじっと見つめていた。

…はっとするほどに美しく叙情的で…心がぎゅっと掴まれるほどに寂しげな横貌であった。
日頃朗らかで華やかな雰囲気の薫とは、まるで違う印象だった。

…白いシャツに黒いスラックス姿という地味な格好は学院から帰宅したばかりだからだろう。
けれど、仕立てが良いせいか、着ているひとの容姿が端麗だからか、とても洗練されて見える。

繊細で優美な彫像のような薫の横貌を、絹は思わずうっとりと眺めてしまう。

…何をご覧になっているのかしら…?
薫が手にした銀製の写真立ての中の人物が気になる…。

…どなたかしら…?
もしかして…
恋人…?

一瞬、胸がずきりと痛んだ。
そんな自分に狼狽し、思わず後退りした。

…その気配を察したのか薫が視線を上げ、ゆっくりと絹を振り返った。
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