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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「ああ、絹さん。
ご機嫌よう」
薫は打って変わった屈託のない明るい笑顔で笑いかけ、さりげなく写真立てをチェストの上に裏返しに戻した。

「…ご機嫌よう、薫さん。
お帰りなさいませ」
絹は膝を折り、恭しく挨拶をする。
長いドレスのスカート捌きは梅琳に教えてもらった。

絹をやや眩しげに見ながら、薫が前に立つ。
「…どうですか?
こちらの生活には慣れていらっしゃいましたか?」
「はい。皆さま、優しくしてくださいますから…。
…あの…。ただ、ひとつだけ…」
…先日から心配だったことを、口にするべきか躊躇する。

「何ですか?何かありましたか?」
優しく貌を覗きこまれる。
ふわりと良い薫りがして、絹の胸は少し鼓動が速くなる。
香水を付ける男性など、絹にとっては初めてだ。
…薫さんの眼…琥珀の色みたい…。
こんなに貌の綺麗な男性を、絹は見たことがない。
…近くにいるだけで、まるで夢心地のようになる。

「…あの…。私のお披露目の会のことですが…」
遠慮勝ちに口を開くと、薫はすぐに
「ああ…。そのことですか」
と、灯りを灯したような華やかな笑顔になった。

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