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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
…薫の表情が、先ほど写真を見ていた時のような寂しさと切なさが混ざり合ったような色を帯びる。

…もしかして…その幼馴染…て…。

「…あ、あの…」

薫が夢から覚めたような眼差しを上げる。
「…その方って…薫さんの恋人ですか?」
長い睫毛が驚いたように瞬かれ…、薫はふわりと微笑った。
「…ええ、そうです」
絹の胸がつきりと痛んだ。
「…そう…ですか…」
そんな自分に動揺し、明るく笑い返す。
「素敵な方なのでしょうね。
薫さんに想われる方なんて…」
薫は照れたように髪を搔き上げた。
「…さあ、どうかな…。
頭は良いけれど堅物で馬鹿みたいに正義感が強くて、おおよそ面白みの薄いひとですよ」
「…まあ…」
まさか恋人を貶す言葉が薫の口から飛び出すとは思わず、絹は大きな眼を見張った。

…けれどすぐに…
「…小さな時から、僕のことばかり心配して…世話を焼いて…優しすぎるくらいに優しくて…僕がどんな馬鹿なことをしても許してくれる…そんなひとです…」
…最大の愛の言葉が、続いたのだ。

「…そうですか…。
とても素敵な方ですね…」
絹の率直な言葉に、薫は照れ隠しのように肩を竦めた。
「…絹さんに褒めてもらえるようなやつじゃない。
今だって僕をやきもき…いえ、何でもないです」
そうして、話題を変えるように、絹と改めて向き合った。
「ワルツなら僕がお教えしますよ。
絹さんならきっとすぐにマスターされます。
…毎週土曜日の夜、ここの舞踏室で…。
いかがですか?」
絹は慌てて頷いた。
「…ご迷惑でなければ…よろしくお願いいたします」
頭を下げる絹に、薫は微笑って手を差し伸べて促す。
「さあ、もうお茶の時間だ。
メイリンに怒られる前にまいりましょう」

扉を開ける薫に、絹は最後の疑問を投げかけていた。
「…あの…。
その恋人の方は、今どちらにいらっしゃるのですか?」
…夜会には、呼ばないのだろうか…。
遠くに住んでいるのだろうか…。

薫がゆっくりと振り返る。
…その琥珀色の瞳が、先ほどの寂寥の色に静かに瞬いた。

「…僕の恋人は、戦地からまだ帰りません」



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