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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「…さあ、絹さん。僕の手を取ってください」
薫がにこやかに微笑み、絹に手を差し伸べた。

「…でも…ここ…学院のホールですよね…?」
ヴィクトリア朝の意匠が細部に施された広いホールの磨き抜かれた床の上で、絹は戸惑ったように辺りを見渡した。

「…ここでワルツのレッスンを…?」

…この日の夕方、龍介に会いに学院を訪れた絹を、薫はまるで攫うように手を引いていったのだ。

「やあ、絹さん。
ちょうど良かった。こちらにいらしてください。
…ワルツのレッスンをいたしましょう」

薫は、まるで水晶でできたような煌めくような美貌に笑みを浮かべ、絹を誘ったのだ。

「ちょっ…!縣先生!
絹を…絹さんをどこに連れてゆくつもりですか⁈」
慌てて追いかけてくる龍介に薫は琥珀色の美しい瞳で、やや高慢に笑った。

「絹さんは、僕とこれからワルツのレッスンだ。
彼女のお披露目の夜会まで時間がないからね」
龍介は驚いたように、男らしい眼を見開いた。
「…お披露目…?
何のために…?」

薫は絹の手を引き寄せると、冷淡に言い放った。
「…表向きは、絹さんを内々の人々にご紹介するためだ…。
けれど本当の真意は…絹さんと僕とを添わせるための準備の夜会さ」
「…そ、添わせる…て…」
龍介は唖然とした。
「…薫さん…」
絹が息を飲む。
そんな絹の肩を、薫は優しく抱いた。
「…皇帝陛下は、絹さんと僕とが結婚することを望まれている。
絹さんをくれぐれも頼むとのお手紙も直々に戴いた」
そうして、龍介を見遣ると冷たく言い放った。

「…だから絹さんは、きみのものではないのだよ」






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