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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「…私は、かつて絢子を酷く傷つけてしまった。
いや。…ずっと傷つけていたのに気づかない振りをしていたんだ」
大紋の知的な横貌が苦しげに歪む。
「…小父様…?」
ソファに沈み込むように背中を預け、薫に聞かせているような…独り言のような口調で話し始める。
「…私はね、長いことずっと絢子に愛していると言わなかったんだよ」
薫は息を呑んだ。
「嘘でしょう?小父様と小母様はあんなに仲が良かったじゃないですか…なぜ…そんな…」
…と、言いかけて…はっと口を噤む。
…そういえば昔…暁人に聞いたことがあった…。
…「お父様にはお母様と結婚する前に、とても愛している方がいらしたみたいなんだ。
けれどその方とは、色々な事情があって結ばれることができなかったそうだ。
お父様に死ぬほど恋をしたお母様が泣いてお願いして、お祖父様の後押しもあって…お二人は結婚されたらしい。
…少し大人になったぼくに、お母様は一度だけこう仰ったんだ…。
お父様には、申し訳ないことをしたわ。
…お父様は…本当は今でも、その方を愛していらっしゃるのに…。
お父様はお優しいお方だから…お母様を見捨てられないのよ…て。
すごく寂しそうに微笑ってらしたよ…」
…今も忘れられない…その相手は…
雷に撃たれたような衝撃と閃きが薫の脳裏に駆け巡る。
…そうだ…。
なぜ、今まで忘れていたのだろう…。
幼心にいつも不思議に思っていた。
あの二人の周りの異質な空気感…秘めやかな…背徳の薫り…。
…大紋小父様と…あのひと…。
…幼い自分でも眼が奪われるほどに美しく艶やかな叔父…暁を見つめる大紋の眼差し…。
朧げな記憶の中に、人目を避けるように言葉を交わし合い…密やかに手をにぎり合う二人の姿が、鮮明に蘇ったのだ。
…暁…暁人…
同じ漢字だ…!
まさか…!?
大きな瞳を見張る薫に、大紋はゆっくりと振り返る。
…そうして大きな手を伸ばし、薫の純白のミルクのように白い頰にそっと触れた…。
いや。…ずっと傷つけていたのに気づかない振りをしていたんだ」
大紋の知的な横貌が苦しげに歪む。
「…小父様…?」
ソファに沈み込むように背中を預け、薫に聞かせているような…独り言のような口調で話し始める。
「…私はね、長いことずっと絢子に愛していると言わなかったんだよ」
薫は息を呑んだ。
「嘘でしょう?小父様と小母様はあんなに仲が良かったじゃないですか…なぜ…そんな…」
…と、言いかけて…はっと口を噤む。
…そういえば昔…暁人に聞いたことがあった…。
…「お父様にはお母様と結婚する前に、とても愛している方がいらしたみたいなんだ。
けれどその方とは、色々な事情があって結ばれることができなかったそうだ。
お父様に死ぬほど恋をしたお母様が泣いてお願いして、お祖父様の後押しもあって…お二人は結婚されたらしい。
…少し大人になったぼくに、お母様は一度だけこう仰ったんだ…。
お父様には、申し訳ないことをしたわ。
…お父様は…本当は今でも、その方を愛していらっしゃるのに…。
お父様はお優しいお方だから…お母様を見捨てられないのよ…て。
すごく寂しそうに微笑ってらしたよ…」
…今も忘れられない…その相手は…
雷に撃たれたような衝撃と閃きが薫の脳裏に駆け巡る。
…そうだ…。
なぜ、今まで忘れていたのだろう…。
幼心にいつも不思議に思っていた。
あの二人の周りの異質な空気感…秘めやかな…背徳の薫り…。
…大紋小父様と…あのひと…。
…幼い自分でも眼が奪われるほどに美しく艶やかな叔父…暁を見つめる大紋の眼差し…。
朧げな記憶の中に、人目を避けるように言葉を交わし合い…密やかに手をにぎり合う二人の姿が、鮮明に蘇ったのだ。
…暁…暁人…
同じ漢字だ…!
まさか…!?
大きな瞳を見張る薫に、大紋はゆっくりと振り返る。
…そうして大きな手を伸ばし、薫の純白のミルクのように白い頰にそっと触れた…。