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夜明けまでのセレナーデ
第11章 僕の運命のひと 〜人魚姫と王子のお伽話〜
「…お前、軍人だな?
ヤマト民族か?
あの沈没した軍艦に乗っていたのか?
…上等な軍服を身につけていたな。
海軍将校か?」
矢継ぎ早に質問され、思い返そうとするが未だに頭の中は薄ぼんやりとしている。
同時に、割れるように激しい頭痛に襲われた。

眉を顰め頭を抱え込んだ暁人に、傍の少女が庇うように暁人の手を握りしめた。
「パパ!そんなこと、急には思い出せないわよ。
このひと、頭を強く打っていたってドクター・スミも言っていたわ。
…ねえ、名前はなんて言うの?
私はエスメラルダ。14歳よ。
貴方はいくつ?」

「…暁人…です…二十歳です…」
「アキヒト?不思議な名前ね。
じゃあ、アキって呼ぶわ。
ねえ、アキ。貴方は何も心配しないでここで身体を治してね。
私がずっと看病してあげるから」
エスメラルダと名乗った少女は人懐っこい笑顔で笑うと
「今、温かいミルクを貰ってくるわ。
ちょっと待っていてね」
素早く快活に立ち上がった。

暁人はふとその後ろ姿に気を取られた。

…エスメラルダはそのほっそりとした美しい片脚を引き摺るようにして歩き、部屋を出て行ったのだ。

…彼女は、脚が悪いのか…。

ぼんやり思っていると…

「エスメラルダの脚は生まれつきだ。
馬鹿にしたり、嘲笑したらお前を殺す」
有無を言わさぬ低い声が聞こえた。

「そんなこと…!するわけがありません!」
咄嗟に言い返すと窓際で腕を組む海賊が、にやりと笑った。

「…エスメラルダは浜辺でお前を見つけた時にこう言ったんだ。
パパ!王子様が倒れているの。助けてあげて!…とな。
将校の軍服が王子の正装に見えたらしい。
あの子はこの島から出たことがないからな」
その声に父親らしい慈しみが滲む。

…けれど…
と、わざと密やかに声を潜めながら近づいてきた。

「…あの子の夢を壊すことは、俺が許さない。
ここから逃げることもだ。
お前はエスメラルダの王子になるんだ。
…なぜならば、お前はエスメラルダに命を助けてもらったんだからな」

そう言い放つと海の香りがする海賊は、高らかに笑いながら部屋を後にした。
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