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夜明けまでのセレナーデ
第11章 僕の運命のひと 〜人魚姫と王子のお伽話〜
それからというもの、エスメラルダは献身的に暁人の看病をしてくれた。
朝から晩までつきっきりに何くれとなく世話を焼くエスメラルダに、暁人は戸惑った。
「君みたいな年端もいかない女の子に、こんなことをしてもらうのは…」
と、自分でしようとすると、エスメラルダはきっぱりと首を振った。

「まだ無理しちゃダメよ。
…だって、アキは私の王子様なんだもの。
早く良くなってもらわなきゃ」
「…あの…。僕は王子なんかじゃないんだよ…。
…僕は…」
思わず言葉が途切れる。

…軍艦に乗っていたことは覚えている。
あの日、敵機の襲来を受け…自分は海に投げ出された。
荒れ狂う海の中に…恐ろしい勢いでぐいぐいと引き込まれた記憶はある。
…けれど、その前後の記憶がないのだ。

…自分は日本の軍人らしい…。
名前は暁人…。
覚えているのはそれだけだった。
体力が回復するにつれ、不安と焦燥感に苛まれた。

…自分は何者なのだろう…。
どこの誰で、どこに住んでいて、家族はいたのだろうか?
…恋人は…?

思い詰めると、頭が激しく痛んだ。

この、まるで童話かお伽話に出てくるような古い城のお抱え医師の老人は、暁人を診察するとあっさりと言った。

「遭難した時に頭を酷く打っているからな。
記憶に途切れがあるんだろう。
何、そのうち思い出すさ。
あんまり、気にせんようにな」

エスメラルダは暁人の瞳を覗き込み、優しく笑った。

「無理に思い出すこと、ないわ。
アキはずっとここにいたらいいんだから。ねっ?」



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