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夜明けまでのセレナーデ
第11章 僕の運命のひと 〜人魚姫と王子のお伽話〜
二ヶ月もすると、暁人は自力で歩けるようになった。
エスメラルダは心配したが、体力を回復させるためにと暁人は城内を歩き回った。

…城の中は、まるで迷路のように入り組んだ複雑な造りになっていた。
かつて、敵の襲来を防ぐためにそのような構造になったのだとエスメラルダに聞いたが、暁人はよく迷子になった。
そうするとエスメラルダが
「一人で歩いてはだめ!転んだらどうするの?」
と心配しながら飛んでくるのだった。


「…まるで王子気取りだな。ヤマトの軍人風情が」
城の城壁に作られたバルコニーから遠く大海原をぼんやり見つめていると、不快そうな声が投げかけられた。

振り返ると、まだ年若な…けれど酷く挑戦的な眼差しで暁人を睨みつける背の高い青年が立っていた。

…長い黒髪を後ろに無造作に束ね、革のベストに黒いパンツ…足元は裸足という格好からして、この城に住む海賊の若い一味なのだろう。

「エスメラルダ様のお気に入りだがなんだか知らねえが、調子に乗るんじゃねえぞ。
お前はここに捕らわれている囚人みたいなもんなんだからな」
「囚人?」
暁人は眉を顰めた。
「ああ、そうさ。お前は囚人だ。
ヤマト人は闇で高く売れる。
…特にお前みたいなツラの綺麗な若い男はな。
だからエスメラルダ様はお前を気に入って…くそ!」
若い男は舌打ちすると、暁人にずかずかと歩み寄る。

そうして、敵意を剥き出しにした表情で凄んだ。
「エスメラルダ様に手を出したら、お前を殺す!覚えておけ!」

「…それくらいにしておけ。ホセ」
二人の後ろから、低いがどこか官能的な色味を感じる美しい声がのんびりと響いた。

「ビセンテ様!」
若い青年が慌てて、その場に跪く。

…エスメラルダの父、この城の城主の海賊が、まるで海の王者のような風格を湛えながら佇んでいたのだ。




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