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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
まるで幼子にするように、大紋はハンカチで薫の洟をかんでやる。
「薫くんは、暁人が好きなんだね…」
「…はい…」
「…だから、疎開せずに東京に残ったのかい?」
大紋の瞳には優しさと慈しみしかなかった。
薫は大紋からハンカチを受け取り、音を立てて洟をかんだ。
「…はい…。僕はここで暁人を待ちます。
みんなが疎開したら、暁人が帰ってきた時に途方に暮れるでしょう?
…だから、小父様。
小父様は戦争がもっと激しくなったら、小母様を連れて田舎に疎開して下さいね。
小母様は田舎にいた方がいいと思います。
その方が暁人は安心する…。
東京には僕が残るから大丈夫です。任せてください」
大紋は嬉しそうに小さく笑った。
「…暁人は幸せだな。
薫くんにこんなに愛されて…。
…羨ましいよ…」
「…小父様…」
大紋が薫の貌を引き寄せ、目を細める。
…その表情は、以前と変わらぬ薫が大好きな優しくて頼もしい大紋そのものだ。

大紋は薫の額にそっと慈愛だけが詰まったキスを落とし、一度だけ強く抱きしめた。
「…ありがとう、薫くん。
…暁人を、頼むよ…」
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