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夜明けまでのセレナーデ
第11章 僕の運命のひと 〜人魚姫と王子のお伽話〜
「…とても綺麗な方ですね…」
お世辞ではなくそう思った。
西洋古典絵画から抜け出したような典雅な美しさに思わず眼が奪われる。

「エスメラルダは俺に似てしまったからな。
レティシアには何一つ似なかった。
…けれど、レティシアはエスメラルダをそれはそれは可愛がっていた。
『貴方に攫われて良かったことは、エスメラルダを授かったことだわ』
…そう言って、少しだけ笑ってくれた」
泣く子も黙る冷酷無比な海賊の長の貌が、少年のようにはにかんだ。

ビセンテは愛おしい妻の肖像画を見上げながら、苦しげに言った。
「…レティシアは俺に攫われて、人生がめちゃくちゃになってしまった…。
けれど、人生をめちゃくちゃにしても俺はレティシアが欲しかった。
…どんな汚い手を使っても我が物にしたかったのだ」
「…ビセンテさん…」

ビセンテのエメラルドの瞳が暗く哀しみに沈み込んだ。
「…レティシアはエスメラルダが三歳の時に、流行病で儚くなった。
脚が悪いエスメラルダをとても案じながら逝った。
レティシアの遺言はただひとつだけだった。
…『エスメラルダを必ず幸せにしてください…』
俺は泣きながら誓った。
エスメラルダは俺の名に懸けて幸せにすると」

…そうしたら…
ビセンテの引き締まった頰が僅かに柔らかく解けた。

「…レティシアは初めて、自分から俺にキスをしてくれた。
…そうして、驚く俺に優しく微笑むと、微かな美しい小鳥の囁きのような声で告げてくれたのだ」
…愛しているわ…と。

「…ビセンテさん…」

ふっと海賊の長は偽悪的に唇を歪めた。
「レティシアは…最期に俺を哀れに思ったのかもしれないな。
それでも構わない。
俺は、レティシアとの約束は守り通す」

ビセンテがそのエメラルドの瞳を冷酷に暁人に当てた。

「だからお前はずっとここにいるのだ。
ここにいて、エスメラルダの婿になるのだ。
逃げたら殺す。
…覚えておけ」


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