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夜明けまでのセレナーデ
第11章 僕の運命のひと 〜人魚姫と王子のお伽話〜
ビセンテは長い黒髪の巻き毛を無造作に背中に垂らしていた。
…彫りの深い目鼻立ちは、強さと雄々しさを表していたが、どこか憂愁めいているものでもあった。

長い睫毛と二重の瞳は甘やかで、その眼差しで蕩けそうに優しく娘に近づく。

「お前は何も心配するな。エスメラルダ。
パパがすべて良いようにしてやろう」
「…パパ…でも…」
口を開く前に、その引き締まった頑強な腕をエスメラルダに差し伸べる。

「さあ、おいで…。
もうお寝みの時間だ。乳母が探していたぞ。
ベッドを抜け出したりして、悪い子だ」
少しも怒っていない幼子をあやすような口調で、エスメラルダを軽々と抱き上げる。

「アキにはまた明日会えるさ。
お寝みの挨拶は?」
エスメラルダが、やや哀しげに口を開く。
「お寝みなさい、アキ。
…どこにも行かないでね…」

ビセンテと視線が合う。

「…どこにも行かないよ…。エスメラルダ…」

エスメラルダはほっとしたように、微かに笑った。

ビセンテがどこか含みを持たせた…けれど穏やかな声で告げる。

「…お寝み、アキ。
良い夢を…」

「…お寝みなさい…ビセンテ」

親子はそのまま、しなやかに暗闇の中へと消えて行った…。
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