この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夜明けまでのセレナーデ
第11章 僕の運命のひと 〜人魚姫と王子のお伽話〜
…月日は、瞬く間に過ぎて行った。
暁人の怪我はすっかり治り、体調も回復した。
けれど、記憶だけは未だに戻らなかった。
もどかしい思いに囚われながらも、暁人はなす術もなく日々を過ごしていた。
エスメラルダの暁人への愛は、日に日に増して行った。
その小さな身体一杯で、暁人への愛情を懸命に表現しようとしていた。
「大好きよ、アキ。
…私、アキが来るまで寂しかったの。このお城で、ひとりぼっちだった…。
でも、今は違うわ。アキがいる。私の王子様…」
美しいエメラルドの瞳をきらきらと輝かせながら…。
エスメラルダへの想いは、暁人の中で愛おしさをじわじわと増していった。
それは、さながら妹のような感情ではあったが、確かに静かに息付き始めていた。
それゆえに尚更苦しかった。
…この海賊の城に来てから、約一年が過ぎようとしていた。
「来月、エスメラルダは十五歳になる。
…祝いの宴を開くつもりだ」
書斎で本を読んでいる暁人のもとに、ビセンテは不意にやってきた。
そうして、有無を言わせぬ口調で言い放った。
「…その宴で、お前はエスメラルダと婚約するのだ。
この城に住まう全ての者の前で、エスメラルダに愛を誓うのだ」
暁人は思わず立ち上がる。
「ビセンテさん!待ってください!
僕は、まだ記憶を取り戻していないのです。
僕の過去を思い出せないのに、エスメラルダと結婚の約束をするわけにはいきません!」
「お前の記憶が有ろうと無かろうとそんなことはどうでもいいのだ。
お前がエスメラルダの婿になりさえすればな」
幽かに青光りする黒い瞳を細めて、海賊の王が笑う。
「…俺はエスメラルダの願いはすべで叶える。
それがエスメラルダの幸せとあればな。
…レティシアに誓ったのだ。
エスメラルダを必ず幸せにすると」
亡き妻への妄執にも似た言葉に、暁人の背筋がぞくりとする。
「ビセンテさん!
本当に僕と結婚することがエスメラルダの幸せとお思いですか⁈」
熱り立つ暁人に、ビセンテがゆっくりと躙り寄る。
窓の外で、遠雷が鳴り響く。
「…ああ、そうだ。
お前の意思など関係ない。
…エスメラルダはお前を王子にと選んだのだ。
俺はそれを叶えるだけだ」
…微かな冷たい稲光が、不敵な笑みを湛えた海賊王の雄々しい横貌を照らした。
暁人の怪我はすっかり治り、体調も回復した。
けれど、記憶だけは未だに戻らなかった。
もどかしい思いに囚われながらも、暁人はなす術もなく日々を過ごしていた。
エスメラルダの暁人への愛は、日に日に増して行った。
その小さな身体一杯で、暁人への愛情を懸命に表現しようとしていた。
「大好きよ、アキ。
…私、アキが来るまで寂しかったの。このお城で、ひとりぼっちだった…。
でも、今は違うわ。アキがいる。私の王子様…」
美しいエメラルドの瞳をきらきらと輝かせながら…。
エスメラルダへの想いは、暁人の中で愛おしさをじわじわと増していった。
それは、さながら妹のような感情ではあったが、確かに静かに息付き始めていた。
それゆえに尚更苦しかった。
…この海賊の城に来てから、約一年が過ぎようとしていた。
「来月、エスメラルダは十五歳になる。
…祝いの宴を開くつもりだ」
書斎で本を読んでいる暁人のもとに、ビセンテは不意にやってきた。
そうして、有無を言わせぬ口調で言い放った。
「…その宴で、お前はエスメラルダと婚約するのだ。
この城に住まう全ての者の前で、エスメラルダに愛を誓うのだ」
暁人は思わず立ち上がる。
「ビセンテさん!待ってください!
僕は、まだ記憶を取り戻していないのです。
僕の過去を思い出せないのに、エスメラルダと結婚の約束をするわけにはいきません!」
「お前の記憶が有ろうと無かろうとそんなことはどうでもいいのだ。
お前がエスメラルダの婿になりさえすればな」
幽かに青光りする黒い瞳を細めて、海賊の王が笑う。
「…俺はエスメラルダの願いはすべで叶える。
それがエスメラルダの幸せとあればな。
…レティシアに誓ったのだ。
エスメラルダを必ず幸せにすると」
亡き妻への妄執にも似た言葉に、暁人の背筋がぞくりとする。
「ビセンテさん!
本当に僕と結婚することがエスメラルダの幸せとお思いですか⁈」
熱り立つ暁人に、ビセンテがゆっくりと躙り寄る。
窓の外で、遠雷が鳴り響く。
「…ああ、そうだ。
お前の意思など関係ない。
…エスメラルダはお前を王子にと選んだのだ。
俺はそれを叶えるだけだ」
…微かな冷たい稲光が、不敵な笑みを湛えた海賊王の雄々しい横貌を照らした。