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夜明けまでのセレナーデ
第1章 屋根裏部屋の約束
階下には使用人の住居がある。
その更に下に、防空壕はあった。
名うての大工に作らせた防空壕は、例え辺りが火の海と化しても三日三晩は耐え切れるという触れ込みのドイツ製のものだ。
ランプを片手に泉が暗い梯子をいざなう。
狭い四畳半ほどの防火を完備したスペースに、既に不安な表情をしたナニーの梅琳が座っていた。
「メイリン…」
「薫様、カイザーは私が見ます」
そう言ってカイザーを自分の膝に引き寄せた。
カイザーは梅琳に大層なついているので嬉しげに鼻を鳴らした。
梅琳はまだ二十歳を過ぎたばかりの若い中国人のナニーだ。
元々、菫のナニーとして雇われたが、一家の疎開が決まった時に薫の母・光に強く頼まれ、泉とともに東京の屋敷に残ることになったのだ。
「メイリン、お願い。
薫はここを梃子でも動かないと言って聞かないの。
全く、腹立たしいくらいな強情っぱりは誰に似たのかしら。
…この無鉄砲なバカ息子は、泉だけの手には負えないわ。
泉と一緒に薫を守ってあげてちょうだい」
頭を下げる光に、梅琳は慌てて首を振る。
「頭をお上げください、奥様。
私は旦那様に何度も特高から守っていただきました。
他家の中国人の使用人たちは偏見と誤解から解雇され、祖国にも帰れずに苦しい生活を強いられているのに…。
旦那様と奥様は私を、お前は私たちの家族だから何も心配せずここで暮らしなさいと仰ってくださいました。
今の私があるのは旦那様と奥様のおかげです。
今度は私が恩返しをする番です。
お任せください。
必ず薫様を…そしてこのお屋敷をお守りいたします」
そうきっぱり答えると、梅琳は利発そうで凛とした瞳で頷いたのだ。
その更に下に、防空壕はあった。
名うての大工に作らせた防空壕は、例え辺りが火の海と化しても三日三晩は耐え切れるという触れ込みのドイツ製のものだ。
ランプを片手に泉が暗い梯子をいざなう。
狭い四畳半ほどの防火を完備したスペースに、既に不安な表情をしたナニーの梅琳が座っていた。
「メイリン…」
「薫様、カイザーは私が見ます」
そう言ってカイザーを自分の膝に引き寄せた。
カイザーは梅琳に大層なついているので嬉しげに鼻を鳴らした。
梅琳はまだ二十歳を過ぎたばかりの若い中国人のナニーだ。
元々、菫のナニーとして雇われたが、一家の疎開が決まった時に薫の母・光に強く頼まれ、泉とともに東京の屋敷に残ることになったのだ。
「メイリン、お願い。
薫はここを梃子でも動かないと言って聞かないの。
全く、腹立たしいくらいな強情っぱりは誰に似たのかしら。
…この無鉄砲なバカ息子は、泉だけの手には負えないわ。
泉と一緒に薫を守ってあげてちょうだい」
頭を下げる光に、梅琳は慌てて首を振る。
「頭をお上げください、奥様。
私は旦那様に何度も特高から守っていただきました。
他家の中国人の使用人たちは偏見と誤解から解雇され、祖国にも帰れずに苦しい生活を強いられているのに…。
旦那様と奥様は私を、お前は私たちの家族だから何も心配せずここで暮らしなさいと仰ってくださいました。
今の私があるのは旦那様と奥様のおかげです。
今度は私が恩返しをする番です。
お任せください。
必ず薫様を…そしてこのお屋敷をお守りいたします」
そうきっぱり答えると、梅琳は利発そうで凛とした瞳で頷いたのだ。