この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
夜明けまでのセレナーデ
第1章 屋根裏部屋の約束
「疎開しないですって?何を馬鹿なことを言っているの!貴方は!」
軽井沢の別荘への疎開が決まった日のことだ。
朝食室のテーブルで薫の言葉を聞き、光は美しい眉を跳ね上げ、怒りに満ちた貌で睨んだ。
…光は四十も半ばを過ぎたが、驚くほどに若々しく相変わらず眩いばかりに美しい。
艶やかな黒髪にはコテを当て美しいウェイブを作り、まるでハリウッド女優のような華やかさであった。
「贅沢は敵だ」とのスローガンが街中に溢れていることなど、どこ吹く風だ。
身に付けている葡萄酒色のドレスは上等なベルベットで、地味なブラウスにモンペが女性の国民服となった今では考えられないような贅沢な衣服であった。
何度も憲兵隊に釘を刺されているが、その都度獅子のように強く論破し屋敷から追い出すので、次第に彼らはたじたじとなっていった。

「東京はもう危ないの。
子どもたちはみな学童疎開をしているのよ。周りのおうちも皆、田舎に疎開をしているわ。
うちは遅いくらいだわ」
「僕はもう十八です。
子どもじゃない。一人でここに残ります」
大嫌いな黒パンの皿を押しやり、不貞腐れたように薫は答えた。
光が食ってかかる。
「何を言っているの?貴方みたいに運動神経も皆無で無鉄砲で考えなしな子が戦火が激しくなる東京に残るなんて狂気の沙汰だわ!
何がなんでも軽井沢に連れて行きますからね!」

「母様はいつもそうだ!僕が何もできないって決めつけて!
うんざりなんですよ!もう!」
癇癪を起こした薫がテーブルを乱暴に叩いた。
グラスが倒れ、辺り一面は水浸しになった。

隣の席の菫がびくりと怯え、べそを掻き始めた。
「大丈夫ですよ、菫様…」
すかさずナニーの梅琳が菫を優しく抱き上げる。
「メイリン。菫を子ども部屋に連れて行ってちょうだい」
光が指示を出す。
「はい。奥様」
梅琳が膝を折り、菫と共に朝食室を出た。

「…薫様…。
奥様にお詫びを…」
泉が溢れた水をナプキンで拭きながら、そっと促す。
もちろん薫は頑として口を開かなかった。

ぴりぴりとした空気が流れ、それまで黙って話を聞いていた礼也が静かに口を開いた。
「…薫。なぜ疎開したくないのかね?
理由があるんだろう?父様に訳を聞かせてくれないか」





/322ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ