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夜明けまでのセレナーデ
第11章 僕の運命のひと 〜人魚姫と王子のお伽話〜
「…アキ。俺は気が長いほうではない。
そして、まだるっこしい話は苦手だ。
もう一度だけ聞く。
…お前は、エスメラルダとの婚約を取り止めるというのか?」

…低く響く声は、妖しげに甘くさえあった。
けれど…その黒々とした深い眼差しには、冷酷な光が宿っていた。

「…はい。ビセンテ。申し訳ありません。
エスメラルダと貴方には心から感謝しています。
エスメラルダを幸せにしたいと思ったことも真実です。
…けれど…やはり僕は、自分の気持ちに嘘は付けません。
愛するひとがいることを思い出したのに、エスメラルダと結婚する訳にはいきません」
断腸の思いで、言い切った。

絹を切り裂くような悲鳴が、エスメラルダの可憐な唇から上がった。

「貴様ッ!殺す!」
ホセが獣のように暁人に飛び掛かる。
そうして羽交い締めにすると、海側のバルコニーへと引き摺り出した。

「ホセ!やめて、ホセ!」
エスメラルダが悲しげに叫んだ。
「パパ!ホセを止めて!」

…ビセンテは、もう止めはしなかった。
うっすらと微笑みながらゆっくりと…まるで楽しい遊戯を見物するかのように、バルコニーへと歩を進めた。
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