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夜明けまでのセレナーデ
第11章 僕の運命のひと 〜人魚姫と王子のお伽話〜
ホセは暁人を海に面した石造りの城壁に突き飛ばした。

「…エスメラルダ様と結婚すると言え!」
野獣のように唸り、城壁に身体ごと押し付けられる。

…城は断崖絶壁に沿うように構築されている。
眼下に広がるのは、荒れ狂う大海原だ。
遥か下には、荒々しい波濤がごつごつとした切り立った岩肌に砕け散り、白く大きな波飛沫が上がっている。

…落ちたら一溜まりもなく死ぬだろう。
ホセが暁人の喉元を締め付けながら、壁の外に上半身を持ち上げる。
身体が宙に浮き、暁人は懸命にもがく。
「…やめ…ろ…」

「やめて!ホセ!アキが死んじゃうわ!
パパ!パパも止めて!」
エスメラルダが泣きながら叫ぶ。
ビセンテがエスメラルダを愛おしげに抱き寄せながら、凪いだ海のように穏やかに語りかける。

「アキ。俺は可愛いエスメラルダを泣かせたくはない。
エスメラルダに永遠の愛を誓え。
過去は全て忘れるのだ。
ここでエスメラルダと新しい人生を生きるのだ。
そうすれば、許してやる」

…荒れ狂う海の気配を背後に感じながら、暁人は首を振る。

「できません…!
たとえ、ここで死のうと…僕は…偽りの愛を誓うことはできない…!
…僕は…薫に…薫に真実の愛を誓ったのですから…!」

…たとえ、ここで海の藻屑と消え去ろうとしても…!

「貴様ッ…!」
ホセが滾るマグマのような怒りをぶつけるかのように、その頑強な手で首を締め続ける。

…息が…できない…。
このまま…死ぬのだろうか…。

息苦しさと、海に突き落とされる恐怖と闘いながら、暁人はエスメラルダを振り向き…必死で笑いかけた。

「…エスメラルダ…ごめんね…。
せっかく…君に助けてもらったのに…。
君とは…生きられなくて…。
…僕は…君が好きだったよ…。
…僕の優しい人魚姫…いままで…ありがとう…」

エスメラルダの美しいエメラルドの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。

「…アキ…!」





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