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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「…こっちだ。
電気は点かないから、足元に気をつけろ」
鷹司紳一郎は薫を振り返りながら、蝋燭が灯った燭台を手に煉瓦造りの礼拝堂の中に入っていった。
「…礼拝堂…ですか?」
大理石でできた廊下を、小走りでついて行く。

紳一郎は以前と変わらぬ一重の切れ長の涼しげな美貌で微笑った。
「礼拝堂が一番安全なのさ。
…やつらの多くはクリスチャンだ。
さすがに聖なる場所は爆撃しにくいからね」
紳一郎は黒いセーターに黒いスラックス…、薫と同じく国民服は着ていない。
こつこつと響く靴音…懐かしい象牙色のマリア像…飴色のマホガニーの聖歌隊の椅子…
礼拝堂の中を通り抜けてゆく…。

見慣れた風景は、蝋燭の淡い灯りでも手に取るように判る。
…まるで、学生時代に戻ったかのようだ。

機銃掃射で射撃されかけた恐怖が、薄紙を剥ぐように薄れてゆく…。
…おまけに…前を行くのはかつて学院の馬術部の先輩であり…薫とは縁のある鷹司紳一郎だ。

…鷹司先輩に…こんなところで会うなんて…!
懐かしい気持ちと安堵感が綯い交ぜになり、薫は次第に軽やかな足取りで紳一郎の跡を追っていった。
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